しばらくして、
「あいつ、まじムカつく」
と、言いながら右手に鍵を掲げたハローくんが現れた。
思ったより苦戦したようで、頬に殴られたような痣がある。

「はは、ざまーねーな」と渋谷はそれを見て笑った。
「再起不能にしてやったよ」と柚月の目の前にしゃがむ。
「あ、ミッチーくんから、お願い」と柚月が言うから、ミッチーの施錠から外した。

「うわー。自由っていいっすね」とミッチーは立ち上がり大きく伸びをする。
「お前のせいなんだろ」と渋谷に頭を叩かれ、
「すんません。さっきから、何回も平謝りしました。今から土下座します」
と選手宣誓でもするように片手を伸ばした。
そんなことされても困る。
「大丈夫。ミッチーくんがいてくれたから、心強かったし、気にしないで」と柚月が慌て諭した。

柚月の施錠を外していると、木村がひょいと顔を出し「終わったのか」と尋ねる。

「あ、木村さーん」と渋谷がミッチーの腕を引っ張り工場の方へと連れ出した。
パタンとドアを閉じ二人きりにしたのは、渋谷なりの計らいのようだ。

「取れた」とハローくんが言うと、柚月ににこりと微笑みかけた。
それだけで、すごく安心する。
涙がぽろぽろ溢れだした。