誰かと待ち合わせなのかなと横目で見て通り過ぎる。

どうしよう。声をかけたい。でもさすがにそれは……と勇気があるわけでもないのに逡巡していると、急に背後から誰かが柚月の身を屈ませた。

驚いて声がでないでいると、すぐにカーンと高い音が響いた。慌てて腕を払い見ると、白い学ランの彼がいた。

その足元には割れた瓶が落ちていて、中の液体が地図のように広がっている。

もしかして瓶がどこからか飛んできたからぶつからないように庇ってくれたのか――と考えつく間もなく「くそが」と彼が威嚇するように呟いた。

その可愛らしい容姿のどこからそんな声が出るんだろうと見ていると「めんどくせ、逃げるか」と、彼は走り出した。

柚月も何が起きたのか把握できず言われるがまま、走り出すと後ろから罵声と足音が迫ってくる。

なんかよくわかんないけど、すごく怖い。振り返ってはいけない気がして必死に彼に着いて行くけど、彼の足が速くて全然追いつけない。

徐々に柚月自体は悪いことをした記憶も恨まれる覚えもないなと冷静になっていく。

別に私は逃げなくても良かったのかもしれないと考え始めた頃、彼が柚月に気づきようやく振り反った。

「あれ? なんでいるの」と間の抜けた声で問いかけるが、柚月には聞き取れず「えっ?」と訊き返す。

代わりに「あの女捕まえるか」と、追っ手の声が聞こえてきて、やっぱり私も狙われてるの? どういうこと? と混乱しながらも足を止められなくなってしまった。