「約束した覚えないけどね」
足払いをするが、鶴見にかわされる。
ハローくんはすぐに立ち上がると、間合いをとって構えた。
柚月はいよいよ見ていられなくなり、顔を伏せた。
それでも衝撃音や、身体と身体がぶつかり合うような音が聞こえてならない。
ミッチーはハローくんが闘う姿が美しいと言っていたが、柚月にはやはりそう感じられなかった。
薄目を開けると、さっきまでいたふたりがいなくなっていた。
「向こう、行ったよ」
と渋谷が教える。
「喧嘩するとか本当にわかんない」
投げやりに言う柚月に
「理解なんてしなくていいんじゃねーの」
渋谷は言う。
「理解できないもの理解しようとする方が不自然じゃん」
「……でも」
「それより、俺はさ、ハローが柚月ちゃんに会いに来たことが大事だと思うけど。
あ、大丈夫。あいつ超つえーから。
さっさと早く帰ろうぜ。
今日さ、学校の卒業した先輩連れてきたから飯でも連れてってもらおう。
柚月ちゃんも行こうよ」
お気楽に言うが、それはハローくんに対する信頼があるからだ。
負けるわけない。ここから早く帰れる。
隣にいたミッチーも「ハローさん行くなら俺も行きたいっす」と喧嘩が終わってもいないのに、ご飯のことを気にかけている。
調子のいい二人といると、心配している柚月ひとりだけが浮いていて、なんだか力が抜けてくる。
同時にさっきから感じていた寒気はやはり体調が良くないせいだと自覚しはじめた。