その日の帰り、柚月は最寄り駅で下車し自宅と反対の方向に歩いていく。
秋の空は高く、今日は空気が冷たかった。また冬に近づいているなと柚月は身を縮ませた。
少しするとレンガ造りのお店が見えた。10月ということで店頭にはお花の他に、ハロウィンのかぼちゃや魔女の飾りが並べられている。
ここは柚月がアルバイトを始めてからの行きつけの花屋で、ときどき立ち寄っている。
「こんにちは」とお店に入るとレジの奥で作業をしていた従業員の保奈美(ホナミ)さんが顔をあげた。
「あ、柚月ちゃん」
月に数回通うようになってから、すっかり顔と名前を覚えられている。
「ブ―ケ、作ってもらえますか。色とかお任せします」
予算などを柚月に確認する。
保奈美さんの年齢は知らないが柚月と同じ年の子供がいると言っていたから、きっと40代くらいだろうと思っている。自分の母よりも若々しいのは、はりのある白い肌のせいかもしれない。
「今日ね、柚月ちゃん来るんじゃないかって思ってたんだ」
「え、本当ですか」
「うん。毎月1日には絶対来るもんね」
「えっ、すごい。よく1日って覚えて……」
「あっ、ほら月初めだからなんとなく覚えてただけだよ。何か特別な日なの? 彼氏との記念日とか?」
話しながら保奈美さんは並んでいる花から、イメージにあうものを選んでいく。