「京先輩に似てる男の子がいたの?」

教室に入るなり、「紹介してよ」と鞄を抱えたまま柚月の前の席に座る。

「紹介なんでできるわけないじゃん。見かけたの二回目だし」
「二回も見てるの? じゃあ三回目もあるんじゃない? 朝の車両ってことは通学時間絞れば会えるじゃん。仲良くなって紹介してよ」
と難易度の高いことを平然とお願いする。

「無理だよ。私、いつも同じ電車に乗ってるけど、探しても見つけた試しないもん。次はいつになるかわかんないよ。来年になるかもね」

柚月は冗談で返すが「なんだ残念」と言いながら湖夏はにやりとしていた。

「でも探してもっていうことはさ、それってもしかして、一目惚れとかして気になってるってやつ? なんだ! 全然いい人いないとか言いながら、気になってる人いたんじゃん」

「そういうんじゃなくて」と次の言葉に柚月はつまった。

この感覚をうまく説明できる気がしなかったからだ。彼に持った懐かしい感覚の答えが知りたいなんて理由で気になっていたとは伝えにくい。

「え、違うの? じゃないと探さなくない?」
「なんていうか……探しちゃうのはなんか懐かしい感じがする人なの。昔、会ったことあるような感じの」
「え、知ってる人ってこと?」
「思い出せないからなんとも言えないんだけど」
「ふうん。もしかして小さい頃に別れた幼馴染とか? 漫画でよくあるやつ」

そう言われてもピンとこなかった。

「でもやっぱりあんな子、小さい頃に会った気がしないな」
「じゃあ小学校でクラスが一度も一緒にならなかった同級生とか習い事の友達とか? チラッとしか顔合わせてない感じの人」

湖夏が面白がってあれこれ提示するけど、どれも頷けない。

煮え切らない柚月に代わって「わかった。前世ってことにしとこう」と勝手に決断を下すと予鈴が鳴った。