「笹山が言ってもダメなのか?」

せめて、慎の言葉くらい
素直に聞けばいいんだが
それすらしないから厄介だ。

「多分ダメだな」

「そっか、じゃぁ
三組は当分大変だね」

まったくだ。

そして、雪村は何も言わない。

「俺たちは参加する
気がないんで自分が
ターゲットじゃなきゃいいです」

他の奴らのことなんて
知ったことじゃない。

「そろそろ出よっか」

店に掛かっている
時計を見ると入ってから
二時間も経っていた。

「そうだな。出るぞ」

「はいよ」

雪村と的木先生は
先に行き、会計をしている。

「お前ら、この後も暇か?」

一日暇だから来たんだしな。

「あぁ」

短く肯定すると
的木先生から
吃驚する提案をされた。

「じゃぁ、家に来ない?」

えっ、的木先生ん家!?

行けるなら行きたい。

「いいんですか?」

「うん。

その方が時間を気にしないで
話ができると思ってね」

確かに学校から
離れてるとはいえ、
屋外にいれば
誰に会うかわからない。

屋内の方がいいとは
思っていたけど、的木先生ん家に
行けるとは予想外だった。

「じゃぁ決まりだな」

車に戻り、連れて来て
もらった時の様に
「お邪魔します」と言って
乗ったら、「別にいいのに」と
的木先生が笑った。

その笑顔が可愛いと
思ったのは内緒だ。

「俺たちの奢りだか金はいらねぇよ」

車に乗ってから
慎と二人で財布を
出そうとしたら
雪村に止められた。

「いいのか?」

別に、俺たちに払えない
金額じゃなかったが
奢ってくれるみたいだ。

「誘ったのは
俺たちだから奢られといて」

的木先生にまで
言われちゃしょうがない。

「わかりました」

二人で
「ごちそうさまです」
とお礼を言った。

「的木先生ん家は
此処から近いんですか?」

答えたのは雪村だ。

「此処から十分くらいだ」

「ぁはは、静に
先に言われちゃったね」

気にしないのが凄い。

「実家はちょっと遠いけどね」

付け足すように的木先生は言った。

そぉなのか……

好きな人のことは
ちょっとした小さなことでも
知れると嬉しくなる。

「学校からは
少し距離ありますよね?」

車通勤だとしても
やはり距離がある。

「そうだね。

毎日、六時には
起きないと間に合わないんだよ」

本当に早起きなんだなぁ。

俺たちは七時に起きても間に合う。

教師ってのも大変なんだなぁと
思っている内に着いたらしく、
そこは十階建てのマンションだった。

「俺の部屋は
五〇五号室だよ」

駐車場からエントランスに向かい
エレベーターのボタンを押した。

五階に着き、的木先生が
五〇五号室の鍵を開けた。

「はい、どぉぞ」

「お邪魔します」

車に乗った時と
同じ台詞を言って
中に入ると男の人の
一人暮らしとは
思えない程にキレイな部屋だった。

「キレイな部屋ですね」

俺の部屋はヤバいくらい汚い。

慎の部屋も
此処まではキレイじゃない。

「そぉ?」なんて
おどける的木先生は
素で聞き返している。

「はい、とてもキレイです」

一体、何時、
掃除してるんだ?

「慎もそぉ思うだろう?」

A型の慎は小まめに掃除する。

だから《少し》散らかっていても
決して汚なくはない。

一方、B型でマイペースな
俺の部屋はかなり汚い。

片しても一週間で汚なくなる。

「的木先生は
何時掃除してるんですか?」

「普通に休みの日だよ」