カイムは色彩に溢れる賑やかな街だった。

絶えず大勢の人々が道を行き交い、中心部に行けば行くほどその数は増えていった。

大通りには様々な店がずらりと並び、店頭には珍しい野菜や見たことが無い装飾品や衣類などが飾れれていた。

露店では串刺しにされた肉や野菜が焼かれており、食欲をそそるいい香りが漂っている。

エミルは装飾品や衣類を手に取り、少女の顔で無邪気な笑顔を見せた。

「どうグレン、似合う?」首飾りを胸に当てながら、エミルは青年に言った。

「いいんじゃないですか?」
グレンと呼ばれた青年は少しとまどいながらも答えた。

「俺にはよくわかりませんが」
自分でも、なぜだかわからなかったが、言い訳をするように、そう付け加えた。

「ふーん」エミルは少し口をとがらせて考えるそぶりをしたが、店主に礼を言って首飾りを戻した。

その時、店の反対側の通りから、人々の賑やかな声が聞こえた。

大勢の人で賑わうカイムの街中でも、その群衆はひときわ目立っていた。

「ねえ、あそこ。すごく人が集まってる」エミルは興味津々な顔で言った。「行ってみよう」

人の波を掻き分けて、2人はその群衆たちの中心へと足を進めて行った。

グレンとエミルは、やっとの思いで群衆の中心までたどり着くと、視界の隙間から、この騒ぎの正体がとうとう現れた。

それは真っ赤な幕が垂らされた、小さな小さな舞台だった。

舞台に立っているのは、小男の人形だった。

小男の人形は黒い服に身を包み、まるで貴族の家の執事かのように、高貴な佇まいをしていた。

「人形劇ね」エミルは子供のような顔つきで、面白そうに笑った。

「ああ」そう言ってグレンは頷いたが、小男の人形の姿に、どこか不気味さを感じた。


「さあさあ、皆様どうぞお集まりください。そうです。そこの旦那様も、ご婦人も。どうぞ、ご覧くださいまし」

そう言うと、人形は右手をそっと口元に当て、こう続けた。

「ただし、ここでのお話は口外ご無用でございます」
その仕草はまるで本当に生きているかのようで、グレンは背筋にすっと冷たい感覚を感じた。

先ほどまでは騒がしかった群衆たちも、小男の人形の声に静かに耳を傾けた。

「それでは物語の幕開けでございます」