男の子が廊下の端っこで顔を膝に埋め座っていた。

「ねぇ、なに泣いてるの? どこかいたいの?」

顔を上げた男の子は……世の中で一番綺麗だと思っていた姉より、もっとずっと綺麗だった。
鼻を啜りながら男の子は、「僕ね、疫病神なんだ」と言った。

「やくびょうがみ? それって神様?」
「うん、パソコンで調べたら、悪い事を授ける神様だって」

同じ歳ぐらいなのに、物知りだなぁ、と単純に感心した。

「パソコン、使えるの? むずかしい字もよめるの?」
「使えるよ。漢字も読めるよ」

袖で涙を拭くと、男の子が初めて私の顔を見た。
目と目が会う。私はその瞳に見入った。
涙で濡れた彼の瞳が姉のペンダントよりキラキラしていて、とても綺麗だったからだ。

「君は誰?」
「私はトト」
「僕は宇宙」

泣き顔に笑みが浮かび、その顔があまりに美しくて胸がドキドキした。

「トトちゃんもどこか悪いの?」
「うん。私、弱虫だからすぐお熱が出るの」

そっかぁ、と男の子が私の頭を撫でる。

「でもね、本当の弱虫は自分のことを弱虫って言わないと思うよ。だから、本当はトトちゃんは強い子なんだよ」

まるで魔法にかかったように、そうか私は強いんだ。そう思った。