葵宇宙はよく保健室に行く。目的は――。

「明らかにサ・ボ・リだよね」
「柊木先生、信じてくれないんですか?」

柊木とはあの屋上にいた若い校医のことだ。

「だったら教えてくれよ、なぜ屋上から飛び降りようとしたのか」

柊木先生、グッジョブ! カーテンで仕切られた隣のベッドで彼の返事を待つ。

「だから、あの時言ったじゃないですか、魔法使いになるんです」

しかし、葵宇宙の返事はこの前と変わることはなかった。

「嘘くさ。君が本気でそんなことを考えているとは思えない」
「柊木先生、疑い深い人間は嫌われますよ」
「俺は既に嫌われ者だ」

そんな事はない。彼の人気はダントツ一位。絶大だ。

「女子生徒にキャーキャー言われているくせに」
「だからだよ、他の先生や男子生徒の怨念を感じるんだよ」

それって、何気にモテ男をアピールしていない?

「先生って医者でしょ。何を非科学的な事を」

呆れ眼の葵宇宙を柊木先生は冷めた目で見る。

「君こそ、ファンタジーな台詞を吐く奴に言われたくない」

うーん、どっちもどっちだ。

「魔法使いは非科学的なんかじゃない。本当にいるんです」

キッパリ言い切る葵宇宙に、柊木先生は「その根拠は?」と大人げなく言い返す。

「奇跡は誰にでも起こり得るものでしょう?」
「確かにな」

そこは肯定しちゃうんだ。