蒸し暑い空気が漂う教室はいつも通りで、誰も私のことなんて気に掛けていない。


本鈴直前で埋まりつつある席にはクラスメイトたちが座っていて、小さな深呼吸をしてから教室内を見回してみれば少しだけ冷静さを取り戻せた。


笑い声や気怠げな不満が飛び交う中、机と机の間を通って自分の席に向かう。


鉛がついていたのかと思うほど重かった足取りはさっきよりも幾分かはマシになっていて、席に着くとようやくちゃんと呼吸ができたように思えた。


バッグから出した教科書を机の中に移動させながらチラリと右隣の席を見ると、堀田(ほった)さんが一限目の英語の教科書を出そうとしているところだった。


背が高くてショートカットがよく似合うボーイッシュな雰囲気の彼女は、バレー部の練習で校内の外周コースを走っているせいか肌は程よく日焼けしている。


堀田さんとは、一年生の時にも同じクラスだった。


入学した当初は様子を探るようにこんな私にもわりと話し掛けてくれる子がいて、彼女にも数回声を掛けられたことがある。


もっとも、私は壁を作って会話を避けていたし、当時はまだ中学時代に刻まれた恐怖がしっかりと心に残っていたこともあって、質問にすらまともに答えられなかったのだけど……。