寝起きは悪くなかった。
確認した携帯電話は七時十四分を表示した。
眠気が覚めた直後、入野のことが浮かんだ。
ざわつく胸元を落ち着けようと、左耳のピアスに触れる。
愛猫の名を呟いた。
大丈夫だと自分に言い聞かせる。
リビングでは、母親が完成した耳飾りを複雑な表情で眺めていた。
「おはよう」と声を掛けると、彼女は「あのさ」と応えた。
「なんかこれ、微妙じゃない?」
おれは母親のそばへ寄り、手を伸ばした。
布のような感触のあるものが静かに載せられた。
造花を小さな石で彩ったような揺れる耳飾りだった。
「……花が造花みたいな素材だからじゃない? 硝子みたいな、もっと爽やかに見える素材の方がよかったのかなと」
「なるほど」
「なんか安っぽい。いくらで売るつもりだったんだ?」
千二百円と答える母親へ、おれは売れないと食い気味に返した。
「よくその値段で売ろうと思ったな」
「材料にそこそこお金掛かったんだもん」
「ならば金が掛かったように見えるものを作って」
上目遣いに睨む母親へ、耳飾りとともにかわいくないからと返す。