王都に戻ってから2週間、訓練場でバッテリングラムで素振りをしているが体が振り回され、上段から振り下ろし以外バランスが取れない。横薙ぎに振るうと反動を殺せず、全身の筋肉が悲鳴をあげ2撃目まで1秒以上間が空いてしまう。もっと重心移動と反動を生かす剣撃を心掛け、基礎身体能力を高めないといけない。
 身体強化魔法はその身のスペックを割合で増やす。100の力を110や120と上げるのであり、基礎が高ければ高いほど意味がある。前世よりも鈍っている体を鍛え上げるにはかなり無理をしないといけない。最悪一度祖父に会って鍛えて貰うしかないのだが、生き残れなければ死ぬ。祖父の鍛錬で命を落とした冒険者は少なくは無いが、生き残れた者はB級冒険者として箔どころか、平民だろうと騎士や冒険者ギルドに無条件で取り立てられていた。
だが

「真正面から突くなど死にたいのか!」

 16歳のとき、祖父に中段突きを怒声と共に両腕ごと切り落とされ、首の皮一枚を切られた記憶が蘇り冷や汗をかいてしまう。あの後祖父は妹のシーナに烈火の如く怒られ凹んでいたが、腕も問題なく兄セズによって繋げられ後遺症も無い。兄アークスも左腕を切り落とされた事があるし、兄クロムは大剣で体を貫かれ掲げられたこともある。つまり祖父の訓練とは命懸けで、死なない為に全力を尽くしている間に強くなれるようなものだ。
 部屋に戻るため寮の共同浴場で汗を流していると、他の同級生がちらちらこちらをみてくる。気にはしていないが18歳で全身傷跡だらけ、手足にも繋いだ痕が残っているのは確かに異常ではある。最初から無類の強さでもあればいいのかもしれないが、前世もかなり鍛え込む為に師匠に無茶をされたがここまでではなかった。ソーディアン家ではかなり厳しい所か命を削る教育方針と言った方が正しい。

「なぁグレン。寮を出ないか?」

 部屋に戻るなりリヒトに伝えられどういうことかと頭をかしげる。

「なんつうか、別に悪くは無いんだが手狭だろ?」

 確かに人数も増えてきた。私・ジノ・ラクシャ・リヒト・ナルタ・元奴隷のイノ、5人と1匹人だとさすがに手狭だ。イノの体もヴァンダー湖畔から戻ってすぐに スラムの加護魔法 細胞増殖 で治療を完了し頭髪も少しずつ揃ってきている。名前もなかったのだがナルタとラクシャがイノ・ミラルスと名付け、貴族院に行かせるということで今は約半年後に備えて私塾に通い勉強に励んでいる。

「明日ギルドに問い合わせてみます。予算は共有費用から出しておきます」

 翌朝、冒険者ギルドに問い合わせ、パーティー向けの拠点として使える場所の斡旋を依頼する。大規模パーティーになると拠点として下級貴族より大きいな屋敷や庭を持っている所もあり、一種のステータスであり力のあるパーティーである証明でもあった。そのためギルドは拠点となる家屋の斡旋も行っている。
 そして三日後。

「良く見つけたね」

「借地で古い倉庫ですから。一括で10年分600万ほど支払いましたが、場所が場所ですし」

 貧民街ではないものの、平民地区の外壁に隣接する日陰の場所。その上先日近場で殺しがあったそうで、治安も大して良くない為二年ほど借り手がつかなかったそうだ。

「建物もボロボロですが、代わりに好きにして良いそうです」

 倉庫の扉を開けると中は蜘蛛の巣や埃まみれで荒れ果てている。潰れた商店の倉庫だったらしく中は非常に広く簡易的ながら中二階と半地下も造られていた。

「随分と手を入れなきゃだめだが、広いしこれなら安心だな」

 リヒトは片手で蜘蛛の巣を払うと中を見回し、壁を叩いたり床の埃を軽く払ったりしている。一階と二階しかないがそれでも18部屋分はある。壁や部屋を直したり鍛冶場や調合室を用意したりと大変そうだ。

「それじゃ一稼ぎしようか。3000万フリスもあれば充分そうだね」

 現在の共同金の残額は1200万フリス、あと1800万となると今までの階層では二週間程度ダンジョンに篭らないと稼げない金額だ。30層よりも深く潜るか、35層に存在する迷宮主アースドラゴンを仕留めれば素材で軽く1億フリスは超える。だが現在C級の私が倒すのは不味い。実力的にはすでに討伐経験のある兄クロムとセズから可能だといわれているが、それは自分の血を与えて地道に育てていた魔剣があればの話だ。だがそれは教育係に没収され、妹の護衛で着いて行く時に持っていかれてしまった。苦しいが、出切れば使いたくないがやはりあれを売るしかない。

「いままで蓄えた魔石を売りましょう。 また稼がなきゃ行けないことは変わりませんが、改築中に稼ぐ事が出来ます」

 魔石、いままで一度も売らずに貯めていた虎の子貯金のような物。大小と品質は様々だが数千個は確保してある。

「それならギルドで売り払ってから建築店で依頼して、その足でダンジョンに潜ろうぜ」

「行きますか。30層以下のドラゴン狙いに」

「う~ん、私はこの子と寮の方に居るよ~」

「では、ナルタとイノ以外は明日潜るために今日は準備としてましょう」

 ナルタが残り、残りのメンバーで31層以下を目指す事となった。レッサードラゴンなら40000~45000、オーガなら28000~32000、レッサードラゴンとオーガを狙えば価格としても一気に稼げる。ギルドで魔石を全て売り払い、ナルタの要望を加えて建築店で依頼料を支払い各自準備を整えることとなった。
 私は久しぶりに義手店に赴く。漸くできたブレーカーガントレットを受け取り、最終調整の為右腕に装着する。爆発と反動に耐えられるよう手から右胸部までを完全に鋼のフルプレートアーマーで構成、基礎構造部は鋼で作られ前の1.5倍は大型化し、杭の先端からカウンターウェイト長も最大で135cmはある。杭はミスリル合金製で太くなり、中級爆発魔法の爆発と反動に耐えられるよう重さも相応に増えたが、これならあの時と同じように使用したとしても耐えられる。

「これでアースドラゴン狩りが出来る」

 レッサードラゴンやワイバーン程度には充分だし、最下層の主アースドラゴンを相手にするにはこれでなんとかなる。ここ二 三年、アースドラゴンを討伐した冒険者グループは居らず、市場に出回るのが騎士団が定期討伐した時だけに限られるため、金の為ではなくアースドラゴンの魔石や素材があれば交渉事に関して有利に運べる。