どの試験場所でもB級冒険者相手に貴族騎士見習い達は叩きのめされ、一応の反省をしたことで二名の欠員出るだけとなったそうだ。欠員が出たことで新たな入団者が決められることになり、一般兵士の中から採用試験が行われ見習い騎士として採用されることになった。今回も兄に採用試験の相手として呼び出され、多くの正騎士が試験官として選抜中の5名の兵士を見定める事になっている。
 試験の時間が近くなる頃、騒ぎが大きくなり何事かと視線を向けると、貴族の身なりの者が弓的の近くで騎士達と小さな争いとなっていた。内容は聞き取れないがあまり良い雰囲気ではない。私を見つけると騎士達を押し退けこちらを睨みながら指を差した。

「貴様らのような下賎な者が良くも私の顔に泥を塗ってくれたな!!」

 見た顔ではないのだが、状況からして退団させられた元貴族騎士見習いだろうか。横に居る男は顔まで隠れるローブを脱ぎ捨てると、黒い鉄光する筒状のものを身につけていた。

「大金を払って雇った傭兵だ。皆殺しにしろ!」

 爆発音と共にローブの男を止めていた一人の騎士が地面に倒れる。ローブを纏った男の手が握る鉄色の棒状の先端から煙が出ているが、あれは魔法の類なのか分からないが命の危険をひしひしと感じる。

「避けろ!」

「あれは"銃”です! 壁となるものを!」

「アースウォール」

 複数の土の壁が地面から迫り出し身を隠す盾となるが、何か起きたのか理解できないでいた騎士が胸を撃ち抜かれ地面に倒れる。他の騎士たちは理解できずとも盾を構え、比較的装甲の薄いや腕を狙われながらもアースウォールの後ろに身を隠した。

「リーアナ、あれは ジュウ というのか?」

 身を隠しながらな記憶を探るが、なんとなく記憶にあるのだけでしっかりとは思い出せない。ただ向けられると死の恐怖は身近に感じられ、その眼前に立っていてはならないと直感が訴えている。

「しっかり思い出せ! お前以外対応出来ないだから!」

 エルは相変わらず耳を引っ張って怒鳴るせいで頭にがんがん響くのだが、うっすらと思い出し始めている。轟音と共に鉄が撃ち出される鋼鉄の玉。6連発 回転式拳銃 弾はかなり大きめの部類だったはず。特徴はクロスボウよりも連射が効き音が大きいが、その反面再装填も早い。

「タイミングは」

 まだおぼろげだが思い出しかけている。問題はこの世界に比較該当するものが無い為、あの武器の脅威程度を理解し辛い。6回爆発音がした後、何か操作をする事で再び6回撃てるようだ。操作時間はおよそ4秒、身体強化で接近するにしてもあの威力で膝や頭部に直撃すればただではすまない。
 今は感覚的に居る場所を把握しているが、相手をみないで魔法を使うには位置が曖昧すぎるし、魔法を使う為に僅かでも集中を欠いたり動きが鈍ったらいい的だろう。今は相手もこちらを探っているのか最初の位置、弓的の裏から殆ど動いていないようだが、何を考えているのか読めない。

「時間は無い・・・・・・か」

 最初に撃たれた騎士の周囲には徐々に血の池が広がり始めている。あまり長く撃たせていると救護処置が間に合わなくなりそうだ。義理も関係もないが、見捨てるには少しばかり気分が悪い。相手の男が半身を隠している場所は魔法練習用的、中級攻撃魔法を撃とうにも生半可なものでは隠れる事で防がれてしまう。やはり接近して斬るしかない。

「突貫か特攻か。 どちらにせよ即死しなければどうにか」

 最近余裕が無い為手元にある武器はバスタードソードが一本のみ、アイスソードではあの銃の弾丸には耐えられないだろう。

「アースフルプレートアーマー」

 石や土を含むため動きにくく重いが、鋼鉄とほぼ同等の強度を持つ厚い鎧。思い出した記憶が確かなら分厚い装甲なら耐えられるはず。覚悟を決め、的に向けアースウォールから実を出すとすぐに左足に銃弾が食い込むが貫通するほどではない。右手で逆手に持ったバスタードソードで頭部への銃弾を防ぎ、一歩一歩と進んでいくが身体強化魔法を4割使用しても走る事はできない。脚部、関節部、頭部と的確に狙ってくるが、重い上に動きにくいアースフルプレートアーマーはただ頑丈、むしろその頑丈さ以外特徴が無い為ガントレットのみ使っているほど、歩くためだけでも身体強化魔法を使わなければならないという酷い欠陥はある。一歩ずつ歩きながら近付いているのだが、相手は的の裏から離れようとしない。依頼主の貴族の男もそこに居るため一応護る為のか、それとも何か対策があるのか。
 剣が届くまであと3歩と迫ったところで銃を消し、小さな鉄の塊を取り出しこちらに投げた。

「防いで!」

 エルの声にとっさに剣の平を鉄の塊に向けると同時に爆発し、衝撃で砕け散った剣の破片が鎧に突き刺さり数メートル弾き飛ばされる。そして倒れず着地した体勢を整える間もなく、今度は大きな銃らしきものを取り出し、連続した銃弾が撃ち出され鎧ごと体を貫き、貫いた弾丸によって背中の肉の一部がはじけ飛び激痛で意識が遠くなる。それでも兄達に切り刻まれながら意識を保つよう訓練を受けた事で気絶せず、すぐ近くのアースウォールに身を隠す事ができた。怪我も身体強化のおかげで身が砕けるまでにはいたらなかったようだ。

「ウォーターヒール」

 鎧を消し、治癒魔法によって損傷した部位を補い、仮初でも形が整えられ悪化は抑えられる。だがまともに戦って勝つ手段が尽きてしまった。大物、それも連射できるあれを防ぐ手立てが何もない。連射できる大口径の弾丸、片手で持てる銃よりも大きく、絶え間なく連射し続けられる。

「軽機関・・・銃か」

 アースウォールも大口径の弾丸によって徐々に削れて行く。先ほどの爆発物は手持ちが少ないのか、もしくは生成するのに手間がかかるのが使おうとしないのでまだ防げて入るようだ。あれは 軍人、元居た世界では銃器を使用し戦争に行く者。殺人訓練を受けたものがこの世界では余りにも強大過ぎる銃器を持つ。それも自在に操り亜空間倉庫から取り出し、弾にも限りがあるように見えない。やはり転移者相手にするには並の力では対抗する事ができない。

 この場で黒い力を使えばもはや隠す事は出来ないが、このままでは多くの騎士が殺されてしまう。そのような事を許容できるはずもなく、覚悟を決め複数の魔剣を取り出そうとした時声が響いた。

「皆は下がれ!」

 声に振り向くとそこには兄アークスが居た。今回の試験には団長クラスは誰も来ないはずだったのだが、周囲を複数の光の精霊が舞い、すでに臨戦態勢に入り全身から聖なる光を放っている。当然のように兄にも銃口が向けられ銃弾が襲い掛かると思われたが、光速の剣撃ですべての銃弾を弾きとばした。さすがに予想外だったのか、驚愕の表情を浮かべながら徐々に後ろに下がっていく。だが反動が強いのか連射したまま本当にゆっくりとしか歩けていない。しかし兄は銃弾を弾き飛ばしながら確実歩みながら距離を詰めていく。他の武器を取り出そうにも、少しでも動きに揺らぎがあれば一気に間合いに飛び込んでくるのが分かるようだ。だが大きな弾倉とはいえ納められている弾は有限、再び亜空間倉庫だろう場所から交換弾装を取り出すか別の銃器を使わない限りジリ貧だろう。弾切れで銃撃が止んだ瞬間兄は20m近い距離を一気に接近し機関銃を斬り飛ばした。その瞬間、男は左手で腰に下げられていた長めのナイフを掴みアークスの顔目掛けて突き出す。余りにも手馴れている上に躊躇が全くない。右腕を貫き柄が腕にぶつかるまで深々と突き刺さり止った。そのまま兄は無理やり腕を動かした事で右腕を切り落とされるが、残った右腕の肘と右膝でナイフを掴む手を潰すように叩き付けた。身体強化魔法ならあの威力なら骨ごと砕けるはずだが、折れる音はしない。しかしさすがに衝撃がある程度は抜けたのか手から離れたナイフが空中に舞う。アークスが残された左手でナイフを掴むのと同時に、相手の男は右手で大振りな拳銃を取り出し、放たれた3発の弾丸はアークスの胴体を貫通し血が噴出す。だが、それ以上続くことは無く男は首を斬り飛ばされ地面に転がった。
 強い。相手が特殊な力を使わなかったり相性というのもあるだろうが、理解はしていたが転移者を倒すほど兄が強いとは思っていなかった。一際大きい光の精霊が兄の切り落とされた腕を掴むと切り口に押し当て、周囲を他の光の精霊が飛び回ると降り注ぐ光の粒子によって傷が癒え、数秒もかからず完全に治ったようだ。

「ヒールオブセイントミスト」

 兄の魔法によって光の粒子が霧のように周囲に広がり、重症だった騎士達の傷が癒えていく。光の大神の祝福と加護を与えられ、多数の光の精霊が守護し、あらゆる光・神聖魔法を苦も無く扱える兄は名実共に閃光の聖騎士であることは疑いようがない。ようやく到着した治癒術を使える魔導士達が騎士達の手当てに入り始める。

「私のことはいい! アークス副長の怪我を診てくれ!」

「副長ご無事ですか!」

 腕や足を撃たれ、まだ動けない騎士達も兄を心配している。これが人徳という奴だろうか。治癒魔法を行える魔導士達を兄に向わせようとしている。しかしすでに完治している兄には不要だろう。その時兄は死亡した騎士の横にしゃがむと自らのマントを取り外し、その体にかける。

「一人・・・・・・間に合わなかったか。残りの者は治癒魔法を完了するまで安静に」

 最初に撃たれ、胸から血を流していた騎士はどうやら助からなかったようだ。

「私が遅くなったばかりに、すまない」

 兄がゆっくりと目を閉じると他の騎士達も簡易ながら黙祷を捧げている。死者への追悼、騎士はその強さから亡霊になりやすく、またその強さは計り知れない。属性が全く異なるため少々時間はかかったが、兄の魔法によって私の傷も癒え立ち上がる。気にする必要はないかもしれないが、いくら兄でも腕を切り落とされ体を弾丸が貫通して負担がないとは思えない。

「アークス兄さん、傷はもう大丈夫ですか?」

「竜のブレスの方がもっと辛いものだ。あの程度なんということもない」

 こちらをほとんど振り向かずに答えてはいるが、僅かに伺える表情はどこか辛そうに見える。兄は私と異なり優しい。部下を救えなかった事を自ら責めているのだろう。

「そう、ですか。しかし無事で何よりです」

 しかし兄にとって未知の武器を持つ転移者さえも打倒すほどだとは思っていなかった。この世界に私が送り込まれないでも、兄のようなこの世界の住人だけでも問題ないのではないだろうか。

「アークス様! こちらへお急ぎください!」

「今行く」

 声の方に向う兄の後を追うと、先ほどの男の残骸が徐々に塩の塊に変わり砕けていくのが目に写った。持っていた銃やナイフも同じだ。

「魔族か、魔物なのか。 これは こいつは何だ」

 兄は何も言わないが、騎士や魔導士達が戦々恐々としている。武器もそうだが死んだ後の変化がもっとも異常だと感じているようだ。兄アークスは振り返ると私の肩を掴み小声で話す。

「グレン、伏せておけ。 公爵様には私が伝えるが、これは他の者には難しい問題だ」

 どうやら兄は光の大神から聞いているようだ。相手が何者でありそして何をしようとしているのかを。男を連れた元騎士見習いの貴族は自害しており、家に影響が及ばないようにしたのだろうが、もはや家の取り潰しは避けられないだろう。事情を聴取のため兄に呼び出され執務室を訪ねたが、文官や護衛騎士さえおらず、重要な話であるように部屋の隅には盗聴防止の魔道具まで置かれている。

「あれはゲストと呼ばれる者、それに違いはない。私が崇める光の大神フォティ様が仰られていた」

「ゲスト? ですか」

「グレン、お前が崇める神の名は知らないが、あれは“お前と”同じようにこの世界の者ではない。それは間違いないな?」

 兄は私がこの世界物ではない事を知っている数少ない人だ。それでも弟と見てくれるのだが。

「・・・・・・確かにあれは一番最初に私が居た世界の武器を持っていました」

「やはりか、だがフォティ様のお言葉通り世界に安定を齎す筈のゲストが世界を乱す存在になるとは、苦しい戦いになる」

 兄の話は私がテラス神様から聞いていない情報だった。 いままで時折ゲストと呼ばれる転移者や転生者が現れ、勇者、英雄、救世主、神の使徒、世界に与えた影響で評価する言葉は変わっていたが世界に平和をもたらしていたそうだ。最低でもSSクラスの実力を持ちながら知らぬ考え方を持つ“ゲスト”、世界に良い影響をもたらし戦乱を治め、王都戦士養成学校の設立を提案したのもその“ゲスト”の一人だったそうだ。
 しかし兄アークスは光の大神フォティ様から今世界に複数のゲストが存在し、ほぼ全員が世界に平和など齎す事など何も考えていない事を教えられたそうだ。兄は私も一時は監視していたそうだが、私の崇めるのがテラス神様だと分かると問題ないとお墨付きを貰ったそうだ。結局はこの世界にとって紛れも無く“ゲスト”であり部外者、立ち振る舞いが全てを決めるのだろう。
 ある程度の世界の安定と平和によって娯楽や食べ物が発展したように、戦いで弓が生まれ、機構が産まれ、クロスボウと成ったように、自然と必然によって発展していく。偶然出来る物のにもその時の知識や技術によって産まれる限界点があるからこそ、それを解明する技術や知識が発展する。先に進みすぎた物は解明する手段さえ存在しないのだから。魔法の世界なら魔法が、科学の世界なら科学が主流となり、ゲストがもたらしたものは歪な形で残るだろう。数百年先か育つ事のない未知の技術と情報をもたらし混乱を招く存在でしかない。
 この未成熟な世界の最上位神の管理が不足し、何度も崩壊し掛ける度にゲストを呼んでバランスを取り戻させていたが、今はゲストによって壊されかけている。

「グレン、お前は他のゲストと異なり何故世界を変えようとしない。お前は何を考える」

 何をと問われても困る。私は神命に従い、最初の世界に戻るため現在の最上位神を括っている転移者を仕留める。それに何か世界に影響を与えて責任を取れる気がせず、無責任に放置する気になれないだけだ。
 ラクシャ達を癒した魔法も最上位神聖魔法が使える兄なら苦労することなく欠損した腕さえ元に戻す事が出来る。コネと金はかなり掛かるが高位神聖魔法が使える治癒術士でも時間さえ掛ければ出来る事も知っている。渡した武器でさえ世界基準で製造が難しく非常に高価なだけであって作れないわけじゃない。

「変えるも何も、私はほとんど覚えていません。それに私は神命を受けており自由などありません」

 もしかしたら私の思考は転生する時に無意識下で縛られているのかもしれないが、それもこの世界にとって必要なら疑問に持つ必要さえない。

「お前は・・・・・・」

 兄が側で仕えている光の精霊と共にどこか呆れたような表情を浮かべる。力を持つ者なら一度は支配や権力に憧れを持つはずだが、責任を取りたくない故にそのような立場を求めないグレンを理解しつつも変わり者と思ったようだ。

「今後はあのようなものが現れると、エウローリア様にはお伝えする。お前の事は今のところ黙っておくが、知られないように注意するように。私もエウローリア様に問われれば答えねばならないからな」

「・・・・・・ご配慮に感謝いたします」

 今後はもっと暗に行動しながら転移者を探さねばならない。情報を集められる人物と表立って功績と注目を集める人物が必要そうだ。