グレン達は傭兵団マッドネス討伐後、数日掛かったがナルタを含めて魔導蒸気機関車の切符を買う事で無事王都に戻る事が出来た。ナルタは初めて乗れた事に喜んでいたが、残っていた資金の9割がなくなってしまい、それから一ヶ月間、たびたびダンジョンに潜っているのだが問題が多々発生している。

「まったく、男は」

 ダンジョンの隅部屋でラクシャが着替えを覗こうとしていた冒険者の男を軽く蹴飛ばし追い払う。ダンジョン内に置いて治安のほとんどは冒険者達の自己判断や自己防衛にゆだねられ、覗きや痴漢なども発生し女性だけのパーティーなど無いに等しい。

「全部の男がそうだと思われるのは非常に心外ですよ」

「そうだぜ。現に俺達は覗いてないだろ」

 リヒトと同じように主張するが、女性からしてみれば男に違いは無い。覗くという考えが意識に無かったにせよ、見張りさえしなかったのだから同罪だろう。

「あんたらももう少しナルタがパーティーに居る事を考えな!」

 ナルタはミノタウロス族の中では小柄で190程度、温和な雰囲気と優しい顔立ちの綺麗な茶色のショートヘア、街中でも随分と声をかけられていたが、全体的に大きいが胸だけに関するならラクシャよりもでかく子供の頭くらいのサイズはあるだろう。何よりも大抵の男が声を掛けるとき顔や悪くないスタイルより胸に視線が向けられていた。自重しろと思うのだが否定しきれないインパクトはある。
 美麗な顔と赤い瞳に切れ目、黒い長髪と額に二角、戦いの為引き締められては居るが女性を主張する部分はかなり主張し、随分と人目を引くプロポーション、間違いなく美麗な分類に入るのだが、豪快な性格で男を蹴飛ばすラクシャとは大違いだ。

「グレン、何かあたいに対して失礼な事を考えてないか?」

 ラクシャに鋭い眼光を向けられそっと視線を横に向けるとリヒトはすでに逃げるように離れていた。さすがラクシャの弟、察するのが早く我関せずと静かに斧と砥石を取り出して離れた所で研いでいる。出来れば逃げるときには私も誘って欲しいのだが。

「いえ、そんなことはありませんよ」

 目を背けながら否定するが僅かな間をおいてラクシャに頭を軽くはたかれる。

「表情に出てるんだよ。女を相手にするならもう少しきっちり隠しな」

 ここ一月くらいラクシャからはリヒトと同じような扱いを受け、どうやら弟のようなものと認識されているようだ。そんなやり取りをしていると着替え終えたナルタが隅部屋から出てきた。確かにナルタは見かけは良いかもしれないが、人間なら相当筋力があるか強化魔法が得意でない限り難しいポールアックスと呼ばれる戦斧槍を軽々と素の腕力で振り回せてしまう怪力を持つ。ミルモウ族が乳母として貴族に高給で雇われるのは温厚で子供好きだからだけではなく、護衛としても充分過ぎるほど強いからでもあるのだから。

「私の亜空間倉庫はそろそろ一杯です。グレンさんはまだ入りますか?」

 着替えを倉庫にしまったことでそろそろ一杯だと気付いたようだ。亜空間倉庫容量は個人差も大きいし、魔法にある程度長けていなければ容量は限られ、魔法をさほど得意としていないミノタウロス族は少ないらしい。

「まだ余裕はありますが、食料も残り3割を切っていますしそろそろ戻って換金しましょう」

 良く見ると持っているミノタウロス族愛用のポールアックスも随分と痛んでいる。一度戻って買い直すか打ち直したほうがいいだろう。

 ダンジョンを出てギルドに到着すると中は多くの冒険者で賑わっていた。どうやら養成学校の新入生達もダンジョンの上層や周囲の森で狩りを始め、パーティで多くの魔物を狩る事で下級資材が安価になっているようだ。受付で1割ほど安くなった素材を売り払い、前もって話のついている取り決めに従って分配を行う。

「それで ナルタの今回の取り分98万1291。ほぼ半分の50万をギルド送金でいいんですね?」

「はい。それで御願いします」

 ナルタはミノタウロス村からの出稼ぎを兼ねて仲間になり、稼ぎをギルドを通して仕送りする事にしていた。一人で戦うよりもパーティの方が安定するし、何よりも私個人の実績を誤魔化す理由は多い方がいい。精霊であるエルとリーアナが断らない以上怪しむ必要もない。