二人の青年が広い場所で向き合っている。お互い闘争心に溢れ、目に見えるほど強力な魔力の流れが二人の金髪の髪をなびかせる。少し離れた場所で合図を行うよう待たされている弟の私としてはどちらも怪我をしてもらいたくはないが止められない。

「はじめ!」

 その声をきっかけに一人は剣を抜き踏み込むともう一人は巨大な炎を放つ。迷うことなく剣風で炎を切り裂き、一直線に突き進む剣は魔導士の首に突きつけるが、無数の氷の刃が剣士の周囲に浮かんでいる。

「やるな弟。今回も引き分けだ」

「兄さんこそ相変わらず凄い剣ですよ」

 双子の兄達は互いの実力を認め合うと武器を納めると、見学していた末弟の私に向かって歩いてくる。一応弟の私は兄達を誇りに思いたいとは思うのだが。

「おう、どうよ兄さんの力は!」

「アークス兄さんにはかなわないけど、私達も凄いでしょう」

 すでに双子に兄達は王立戦士養成学園に数年ぶりの天才として次兄のクロムは騎士部門、三男のセズは魔道士部門を主席卒業。さらに一番上の兄アークスは宮廷付きの聖騎士、次期筆頭騎士とまで言われ、田舎貴族としては驚くべき立場にあった。

「グレン、お前もがんばれよ!きっと強くなるぞ!」

「そうです。グレンは魔法も剣も出来る用に鍛えたのですから!」

 嬉しくも有るがおかげで何度死に掛けたことか。気絶するまで訓練の相手をさせられては魔法で回復され、礼儀作法や勉強を間違えれば魔法で丸焼きか丸焦げにされたものだ。おかげで今年入学する18歳だというのに全身傷だらけ、顔にも右頬と右顎に刀傷が残ってしまった。

「兄上達には感謝しております。ですが何れ復讐いたします!」

 恨み辛みは無いが感謝と怒りはある。そんなところだ。

「ははいうじゃないか!その意気だ!」

「そうですね。そのときは全力で倒してあげましょう」

 笑顔を浮べながら二人の兄が黒髪の私の頭をガシガシと撫でると自分が転生者だという事をわすれそうになる。私は異世界転生者、前世の私がそうだった。
 つまり私は異世界転生し役目を終えた後、再び別世界に前世の記憶と力の一部、そして前々世の記憶の一部を持って転生していた。
最初に居た世界はほとんど、前に居た世界の事も随分と忘れてしまったが、前世で他の神に尋ねたがこれは新たな命への転生の余波らしい。

「さて、入学試験にはいけないががんばれよ!」

「私も行けませんが、がんばりなさい」

 本来貴族で家督を継げる長男以外は家を出て家を身を立てるしか道はない。長兄アークスが家を次げないため、次兄クロムは家督を継ぐ為家に残り、三男のセズは魔道士ギルドに幹部として所属。長男や長女以外の貴族の子は他の家に婿や嫁となるか、自ら功名を上げて家を立てない限り、平民に落ちるしかない。私も3日後に行われる王都戦士養成学校への入学試験を受けに旅立つ。

「父上と母上は仕事で出ているが、合格すると考えているだろう」

 両親とも元は一流の冒険者であり、今も領地を見回りの為自ら兵を率いて出かけていた。

「お前なら道中も大丈夫だろう。よし いけ!」

「え……あの、馬とか護衛とかは?いや、何よりも旅費は?」

「何を言っているのですか。水浄化や火の魔法を教えたでしょう。何よりも亜空間倉庫も使えるでしょう」

「今すぐ行けばお前の足でも前日の夜につくし、試験前の練習にもなる。何よりも魔物や獣を倒せば売る素材にも困らんだろう」

 兄達の思考の中では遠出=素材集めを兼ねているのだろうか、訓練や勉強漬けで私は家の周辺からほとんど出たことは無いのだが。

「武器を持っていたら邪魔だな。置いていけ」

「え” 兄上私は剣が主体ですが」

「町まで大した生き物はいませんし十分でしょう。いざとなれば氷剣を使いなさい。それでは サモン・エクスプロージョンウルフ」

 炎の狼が召還され、うなり声を上げながらじりじりとこちらに近づいてい来る。触れれば爆発を起す中級召還魔法、追跡・噛み付き・爆発と三拍子揃ったハンティング系召還獣。身体強化魔法を発動して全速力で駆け出す私を追跡するように走り出す。

「馬鹿兄共! 絶対復習してやるからなぁぁぁぁ!」

「愚弟、無駄口叩いてるとおいつかれますよ」

「ひぃぃぃぃ!」

 すでに視界から消え始める弟を見て兄クロムとセズは笑い始めた。

「あの愚弟、まだ気づいて無いのか」

「とっくに私達に迫る実力だというのに、優しい弟です」

 あたから見れば虐待とも思える訓練も才能を開花させる為、同年代ではもはや神の加護でも受けているような差があるだろう。