二日後、武具を整え皆で駅舎にいた。話し合った結果、王都から魔道蒸気機関車にのって北西端の町に二日、終着駅からは馬車を購入して探す事になった。数刻待っていると蒸気を噴出しながら高さ五メートル近い巨大な機関車が駅に入ってくる。前世では魔道とはいえ蒸気機関車に類するものはなかったのだが、機構学が随分と進んでいる。しかし馬車や水車、蒸気ポンプなどから徐々に発展しているが、ドワーフの技術にしては発想が人間寄りなのがいささか気になる。
「魔道蒸気機関車に乗るなんておもってなかったよ」
「あぁ、まだ冒険者がおいそれと乗れるものじゃないからな。Aランクにでもなれば話しは別なんだろうが」
「人ハ不思議ナモノヲ作ル」
切符を検査員に示し、個室へと案内される。魔道蒸気列車はいまだ高価な代物であり、数人が入れる寝起きできる個室作りとなっている。価格は3人と1匹で280万、正直かなり痛い出費なのだが出来る限り急ぎたい。王都戦士養成学園の年次主席、そして相場の2倍を支払う事でなんとか人数分確保する事ができた。やはりコネクションが無いのはこういったときに困る。
問題はコネクションを作る手段だ。有効性があり世界に悪影響を及ぼさない程度の技術は魔法剣の鋳造だが、一国に独占されたり戦争に使われても困る。
「ラクシャ」
「あ~ なんだい」
個室の車窓から見える風景をネタにすでに一本酒瓶を空けている。リヒトはすでに酒を飲んだあとベッドに寝転がり、ジノはすでに寝ておりその毛皮の上でエルとリーアナも静かに眠っていた。
「誰か信頼できる貴族や商人は知らないか。入用な予算を得るために武器を売る事も考えている」
「そんなやつ知らない」
はっきりと否定する。事実裏切られて奴隷に落とされたラクシャにしてみれば信頼に値する者などいないと考えていた。
「だが、ドワーフ一族なら話別だ。奴等は武具を蔑ろにしたり下衆な商品とする奴らは大嫌いだからね」
「ドワーフか」
前世では耐えられる武具に困り、導きによってドワーフ達に依頼をする事になったが、分かりやすいほど職人気質の堅物。信頼してもらえるまで鉱山や鍛冶の荷物運びなど手伝いを散々させられ、宴会で倒れるまで酒を飲んだ事でようやく認められ武具を作ってもらったのだが。今は失ってしまったが、この世界でも同じものを作れるだろうか。
「あいつらと会いたいならあんたが作った武器と酒を持っていけば国境も開けてくれるだろうさ。あんたの武器はドワーフにとっても珍しいはずだよ」
「そんなものか?」
「魔石の増強効果がなくても、あたいが知ってる武器の中じゃドワーフの武器と比べても上質な分類だよ」
色々思い出したのもあるが、基本は鍛冶教官から得た技術を踏襲し、一般流通している素材で出来る事をしたつもりだったが、どうやら鋳造技術に関して鍛冶教官は一流だったということだ。
「ただ、馬鹿貴族や商人に知られた場合は、やはり拘束を狙ってくるだろうね」
捕縛されて奴隷にされるだろう。それが出来るのはAランク以上の冒険者だろうが、不意を突かれでもしたら
「やはりラクシャが居て助かる。 リヒトは・・・・・・自分とおなじみたいだな」
「弟はあんたより考えるのは苦手さ。 ジノは考えても話さないだろうけどね」
「程度を抑えて技法を秘匿しておくべきか。やはりコネがないと手間だな」
ため息をつくと列車の外をみる。静かになった車内でラクシャはうたた寝を始めているグレンを見ていた。
鬼人族のあたいから見てもこの男は変わっている。人族でありながら鬼族と同じ黒い髪は珍しく、右頬に刻まれている二つの傷跡も含め鋭い眼も顔立ちもよく似ている。外見だけではない。ダンジョンで戦うときも急所や弱点を狙うよりも自らの望む形に誘導する事で優位性を得るなど鬼族に似た戦い方もする。
魔物や精霊と寝食を共にし、奴隷に対して何も思っていないなど考え方も変わっていた。今は少なからずあたい達を信頼してくれているようだが、時折この男からは前族長が放つものと同じ常闇のようなモノを感じる。いずれは分かるときがくるかもしれないが、その時は仲間のままなのかそれとも敵になるのか。
椅子の横に立てかけられている大鉈を見つめ、今眠っているこの場で殺してしまった方がいいのだろうかと頭を過ぎる。大鉈に手を伸ばそうとしたとき身が凍るような魔力が流れ出し、グレンはゆっくりと身を起こすと周囲を警戒している。
「襲撃ですか?」
ほんの僅かな気配の揺らぎでも気付いたのは驚きだ。
「いや、こちらも妙な気配を感じたが気のせいみたいだよ」
「そうですか。列車強盗でも出たのかと思いましたよ」
気を抜いたのか凍るような魔力は徐々に薄れ普段どおり氷属性が強い性質に戻る。
「ラクシャが居るので油断しすぎたかな」
それに窓ガラスに映る自らの顔を見ると迷いの表情が浮かんでいた。キメラドラゴンによって爛れた顔も無理な身体強化で切れた靭帯も治癒してくれた事、借りはあるし恨みは無いが私の手に余る。深くため息をつき、色々考えても今は仕方ないと思いながら酒を飲みつつ再び車窓を眺め始めた。
「魔道蒸気機関車に乗るなんておもってなかったよ」
「あぁ、まだ冒険者がおいそれと乗れるものじゃないからな。Aランクにでもなれば話しは別なんだろうが」
「人ハ不思議ナモノヲ作ル」
切符を検査員に示し、個室へと案内される。魔道蒸気列車はいまだ高価な代物であり、数人が入れる寝起きできる個室作りとなっている。価格は3人と1匹で280万、正直かなり痛い出費なのだが出来る限り急ぎたい。王都戦士養成学園の年次主席、そして相場の2倍を支払う事でなんとか人数分確保する事ができた。やはりコネクションが無いのはこういったときに困る。
問題はコネクションを作る手段だ。有効性があり世界に悪影響を及ぼさない程度の技術は魔法剣の鋳造だが、一国に独占されたり戦争に使われても困る。
「ラクシャ」
「あ~ なんだい」
個室の車窓から見える風景をネタにすでに一本酒瓶を空けている。リヒトはすでに酒を飲んだあとベッドに寝転がり、ジノはすでに寝ておりその毛皮の上でエルとリーアナも静かに眠っていた。
「誰か信頼できる貴族や商人は知らないか。入用な予算を得るために武器を売る事も考えている」
「そんなやつ知らない」
はっきりと否定する。事実裏切られて奴隷に落とされたラクシャにしてみれば信頼に値する者などいないと考えていた。
「だが、ドワーフ一族なら話別だ。奴等は武具を蔑ろにしたり下衆な商品とする奴らは大嫌いだからね」
「ドワーフか」
前世では耐えられる武具に困り、導きによってドワーフ達に依頼をする事になったが、分かりやすいほど職人気質の堅物。信頼してもらえるまで鉱山や鍛冶の荷物運びなど手伝いを散々させられ、宴会で倒れるまで酒を飲んだ事でようやく認められ武具を作ってもらったのだが。今は失ってしまったが、この世界でも同じものを作れるだろうか。
「あいつらと会いたいならあんたが作った武器と酒を持っていけば国境も開けてくれるだろうさ。あんたの武器はドワーフにとっても珍しいはずだよ」
「そんなものか?」
「魔石の増強効果がなくても、あたいが知ってる武器の中じゃドワーフの武器と比べても上質な分類だよ」
色々思い出したのもあるが、基本は鍛冶教官から得た技術を踏襲し、一般流通している素材で出来る事をしたつもりだったが、どうやら鋳造技術に関して鍛冶教官は一流だったということだ。
「ただ、馬鹿貴族や商人に知られた場合は、やはり拘束を狙ってくるだろうね」
捕縛されて奴隷にされるだろう。それが出来るのはAランク以上の冒険者だろうが、不意を突かれでもしたら
「やはりラクシャが居て助かる。 リヒトは・・・・・・自分とおなじみたいだな」
「弟はあんたより考えるのは苦手さ。 ジノは考えても話さないだろうけどね」
「程度を抑えて技法を秘匿しておくべきか。やはりコネがないと手間だな」
ため息をつくと列車の外をみる。静かになった車内でラクシャはうたた寝を始めているグレンを見ていた。
鬼人族のあたいから見てもこの男は変わっている。人族でありながら鬼族と同じ黒い髪は珍しく、右頬に刻まれている二つの傷跡も含め鋭い眼も顔立ちもよく似ている。外見だけではない。ダンジョンで戦うときも急所や弱点を狙うよりも自らの望む形に誘導する事で優位性を得るなど鬼族に似た戦い方もする。
魔物や精霊と寝食を共にし、奴隷に対して何も思っていないなど考え方も変わっていた。今は少なからずあたい達を信頼してくれているようだが、時折この男からは前族長が放つものと同じ常闇のようなモノを感じる。いずれは分かるときがくるかもしれないが、その時は仲間のままなのかそれとも敵になるのか。
椅子の横に立てかけられている大鉈を見つめ、今眠っているこの場で殺してしまった方がいいのだろうかと頭を過ぎる。大鉈に手を伸ばそうとしたとき身が凍るような魔力が流れ出し、グレンはゆっくりと身を起こすと周囲を警戒している。
「襲撃ですか?」
ほんの僅かな気配の揺らぎでも気付いたのは驚きだ。
「いや、こちらも妙な気配を感じたが気のせいみたいだよ」
「そうですか。列車強盗でも出たのかと思いましたよ」
気を抜いたのか凍るような魔力は徐々に薄れ普段どおり氷属性が強い性質に戻る。
「ラクシャが居るので油断しすぎたかな」
それに窓ガラスに映る自らの顔を見ると迷いの表情が浮かんでいた。キメラドラゴンによって爛れた顔も無理な身体強化で切れた靭帯も治癒してくれた事、借りはあるし恨みは無いが私の手に余る。深くため息をつき、色々考えても今は仕方ないと思いながら酒を飲みつつ再び車窓を眺め始めた。