王都戦士養成学校の正門前には衛兵と事務員らしき人が待機し、翌日の入学式に備え集まってきている入学生に寮の場所の案内を渡している。希望する者全て格安で入寮出来る為、一部の貴族を除いてほぼ全ての学生が入寮を選ぶという。

「合格試験番号99です。私の寮はどこになるでしょうか?」

「今年の一年生の寮はC棟とD棟です。優秀特待生は最上階5部屋に別れ、99番はD棟にあります」

「ありがとうございます」

 ジノーヴィと共に量がある場所に移動すると大きな5階建ての建物が複数立ち並んでいた。これが全て学生寮だというのだから、オーデイン国が強力な兵団を持つというのも良く分かる。国を挙げて国力増強に本腰を入れ、あらゆる部門に優秀な人材を集め育てるには、育成機関に予算を正しく潤沢に注ぎ込めばいい。
 1棟100名、2棟に別れ200名の合格者が四畳半程度の部屋を割り当てられる。卒業まで共同利用の食堂や調理場、風呂場などを利用して生活していく。しかし特待生となると3LDKや4LDK程度の広さがある部屋が用意され、簡易的な調合室や魔方陣結界など多様な設備が充実していた。

「ところで、君の寝床はどうしようか。 何か希望はあるか?」

 何も言わず用意されているベッドに前足を置いてこういったものが良いと主張している。

「それじゃ買いに行くか。 明日にでも依頼を受けないと予算がちょっと厳しいかもしれないが」

 床に敷く大き目の絨毯とクッションを購買部で買い込み、ジノーヴィは前足で調整した後満足げに寝転がっている。購買部といっても町にある大きめの商店となんら変わりはないが、都合上そうよばれているらしい。


 入学式、面倒にも程があるのだが優秀特待生である以上理由をつけて休むわけには行かない。200名以上の新入生が実技試験の行われた実議場に集められ、仮設だろう壇上の来賓席にはお偉いさんだろう方々が座っている。
 中央に立つのは学園長だろうが随分若く40代くらいに見える。堀の深い皺や戦傷から実戦を充分積んで居るのは確かだろう。離れた場所からでも感じ取れる魔力に乱れもなく、AクラスもしくはSクラスの冒険者くらいの力はありそうだ。

「諸君、王都戦士養成学園への合格おめでとう。最短で2年 長くて6年で君達は一人前となり卒業する事となる。各自才能を存分に伸ばし努力するがいい」

 基本的な挨拶ではあるが、一応来賓に貴族連中が居る事を考えれば当たり障りのない挨拶だろう。

「そして特待生、お前達20名に教官達が特別教えることはない」

 教える事はない。突然の言葉に唖然としてしまったが、その言葉に来賓者達が驚いている様子はない。生徒達がざわめいている中話は続けられる。

「お前達はどのような形であれ、特待生になるだけの知識と実力を身につけてきた。この学校にはBクラスの戦士・魔導士、高度な技術を持つ錬金術師・鍛冶師などが居る上、貴重な蔵書が保管されている図書室もある。自ら何が足りないか考え、自ら学ぶがいい」

 自ら考え伸ばせるのなら教える必要はないということか。大分変わった教育方針だが、特待生になれるだけ自己研鑽を積める者には不要だということだろう。

「この中にはすでにDクラス冒険者の資格を持つ者も3名居るが、学生がダンジョンにもぐる場合は許可が下りるまでは随伴教官がいなければならない。随伴した教官が問題ないと判断すれば、Dクラスはパーティーだろうが単独だろうが自由に潜る許可を与える。以上」

 王都の近くにあるダンジョンは35層。すでに探索し尽くされているが、ダンジョン由来の資源が手に入るため王国の所有物として管理されている。最下層に現れる階層主のアースドラゴン、危険度がもっとも高いが討伐及び素材価格が非常に高い。そのためBクラス冒険者だけではなく、Cクラス冒険者達が一攫千金を狙っては屍の数を増やしている。
 その為未来性のある学生達をむやみやたらとダンジョンにもぐらせたくはないのだろう。

 入学式で集められてから20分と経たずに解散となった事から午後は金を稼ぎに出向く。王都のダンジョンからさらに離れた場所にあり、スライムや狼や兎や猪タイプの魔物が現れ、そこそこの討伐報酬と素材にもなる。獣がメインと成る事から肉や毛皮など丸ごと売れるし、何よりもダンジョンと違い許可が不要というのが助かる。森の端から端まで馬でも4日もかかる広大な森なため、資源や動物も豊富でジノと共に20頭程度イノシシ型の魔獣を狩り次々亞空間倉庫にしまう頃には周囲が暗くなり始めていた。

「せっかくだし野営するか。食うものもあるしな」

「肉ダナ」

 1頭のイノシシの血を抜き取り食える部分を分ける。解体しても売れなくもないが、せっかくだから解体した一体は全部食料にしてしまった方がいい。ジノの分を切り分けるとじっくり芯まで火が通るように魔法で乾燥させた木で円錐型に組み、火をつけた薪で切り分けた肉を木の枝に刺して火であぶる。100本近くあるとさすがに手間がかかったが、生食と言うのはどうも苦手だ。ジノはそのまま食べるのかと思ったのだが、木で組んだ焼き場の前に噛み千切った肉を並べている。どうみても焼こうとしているようにみえるのだが。

「ジノ、焼くのか?」

「焼ク」

「そうか。ならそうしよう」

 ジノが噛み千切った肉を枝や骨に突き刺し火であぶる。いずれ魔法でこの程度の作業は出来るようになって欲しいが、今は友が食い易いように手を貸す。

「調味料が欲しいが、まぁこれも悪くはないか」

 ジノには焼けた肉を枝から取り外し土の上に置くわけにもいかないため、イノシシの皮の上に置くと次々腹に収めていく。少しは噛めとは思うのだが、いい食いっぷりを見せられるとこちらも嬉しくなる。しかし食いまくった代わりにジノが夜警をしてくれたが、朝食の為に用意しておいた大量の焼肉を根こそぎ食われたのは許しがたい。
 翌日は主力として昼過ぎまで狩り続けてもらい、王都に戻ったのは夕暮れが町を覆い始めた頃だった。

「さて、3頭を残したし後は野営用の調理道具や調味料を買っておこうか。次の狩ではもう少し美味い肉が食えるからな。あとそろそろダンジョンに行くか」

 口数は極端に少なく、他の人前では話す事はないのだが、分かりやすくジノの尾は左右に揺れている。個人的には肉よりも魚を食べたいものだが、海が遠く川魚を食べる習慣も少ないこの国では少々難しい。