そもそも仕事に就いたきっかけはあのライブから三ヶ月ほど経った林道さんの何気ない一言がきっかけだった。
 いつもの如く林道さんからご飯に誘われた僕は、居酒屋へと向かった。暖簾を潜り、店員の誘導で林道さんのいる部屋へに入ると、高藤さんも一緒にいて、僕の到着を待つより先に始めてしまっていた。
「高藤さんも一緒だったんですね」
「なんだあ、高藤だって一緒にいたっていいだろう」
 もう酔っ払っているのか、林道さんは横暴な言いがかりをつけてくる。
「林道、小林はそういうつもりで言っていない。そしてお前は酔いすぎだ」
 林道さんの頭を小突き、すまんな、と手を合わせる高藤さんに苦笑いで答えながら席についた。間もなくビールが運ばれ、三人は乾杯をしてビールを呷る。林道さんは半分ほど一気にジョッキを空けると、はぁ、とわざとらしいため息を吐く。
「ああ、最悪だなあ」と不自然な独り言を大声で発しながら、僕と高藤さんをちらちらと横目で反応を窺うそれは、幼児そのものである。高藤さんの方を見やると、視線が合った高藤さんは、「来てからずっとああなんだ」と心底嫌そうに言った。
「理由を聞いても、いやあ、としか言わないからこちらも参っていたんだ。恐らく小林が揃うのを待っていたんだろう」
 林道さんはビールを早くも三杯ほど空けてはいたが、呂律が回っていないところを見ると、まだ酔っ払ってはいないだろう。あの個性的なテンションのせいで、素面と泥酔の区別がつかないのが難点だが、これまでの飲みっぷりから察するにかなり強いはずだ。高藤さんも、「酔いすぎだ」と言いながら、呑むのを止めないところからも、彼の意識がはっきりしていることを知っている。だからこそ、面倒くさいという言葉がしっくりくる始末になっているのだ。
「何かあったんですか」
 僕は優しい口調で、林道さんに問いかける。
 これは高藤さんではなく、僕の役目だ。高藤さんが尋ねても、こうなるとうんとすんとも言わなくなる。
「お、聞いてくれるか」
 待ってましたと言わんばかりに、食い気味で林道さんは顔を上げた。
「はい、聞きますよ」
 僕は姿勢を正し、林道さんの方を体ごと向けた。
「実はな……」
 そう言って林道さんは徐に語りはじめるが、高藤さんが後ろから肩を叩いた。
「あまり真剣に聞かなくていいぞ。酒の肴程度にしておいた方がいい」
 高藤さんは至って真面目な表情でとんでもないことを告げる。ああそうなんですね、と思わず相槌をしてしまいそうなほどに自然な口ぶりだった。
「あくまでも俺の持論だが、こういう時の林道の漫談は──」
 高藤さんもその場を楽しんでいるのだろう、少し間をあけて、唇を湿らせた。
「──俺たちに言っても仕方のないことばかりだ」
 間を開けるほどのことだったのかと呆れつつ、僕は高藤さんがだいぶ酔っ払っていることを理解した。