心が空っぽというのは、まさにこのことだった。


覚悟はしていたはずだった。


だけど、実際に起こってみるとショックを受けるというのは、良くあることだ。


ショックというレベルのものではないが。

きっとだ。それすらも、定かではない。


頭が働かない。



ただ一つ思うのは、今ここで、舌を噛んで死んでしまいたかった。


手を切ってもいい。

首を切ってもいい。

窓から飛び降りてもいい。


痛いのなんてどうでもいい。

死に方ならいくらでも思いつく。


人間の頭というのは不思議だ。

ただこの苦しみが消え去れば、何がどうなっても良かった。



風に煽られて、ふわりと優雅に舞っているカーテンでさえ、恨めしかった。

カチカチと音をたてて動いている時計も、何の変哲も無く閉まっている棚も、このビルがまっすぐ傾くことなく建っていることも。


日常が恨めしかった。

この世界が恨めしかった。

もう何もかもが恨めしすぎて、訳が分からなかった。


自分が元気に立っていることも恨めしい。

呼吸をしていることが恨めしい。




私が代われたら――。



それは今まで何度願ったか分からない願いだ。


そんな私に、いつも彼は笑って接してくれた。

怖いのは確実に自分のはずなのに、そんな顔を微塵も見せなかった。

彼は最期の最後まで、勇敢でかっこよかった。




静かに呼吸器が外され、医者が時計を見て時間を告げた。

その数字は私の頭には残らなかった。


ただ無常な心電図の機械音だけが、一定に病室に流れ続けているのが私の頭に響くだけだった。



周りでたくさんの人が泣いていた。

その人たちのほとんどを、私は知っていた。



彼は最期の時も多くの人に囲まれていた。


それだけ、人望が厚かった。