「あら、エリー」
「リザさん、こんにちは」
「来てくれたのね。久しぶりじゃない?」
「そうですね」
テオと似たようなことを言うリザに、思わずクスッと笑ってしまう。
「新作のケーキがあるのよ。カフェオレも淹れるわ。だから、ゆっくりしていきなさい」
柔らかい表情でそう言うリザ。
エリーは頷き、ケーキとカフェオレを堪能することにした。
もしここにリヒトがいたら、きっとすごく喜ぶに違いない。
そんなことを考え、エリーは目を伏せた。
泉にも行こうと足を進めたが、エリーは直前で立ち止まった。
もしリヒトに会えなかったら、もしリヒトがまだ苦しんでいたら。
そんな光景を直視することなんてできない。
震える手を押さえる。
エリーは引き返し、海へと向かった。
海にはいつものように誰の姿もなかった。
ウィリアムも今は家で筆を進めている。
エリーとしての生活が始まった場所。
今の自分にとっての全てが始まった場所。
その景色を目に焼き付け、エリーは目を閉じた。
潮の香りが鼻をくすぐる。
自身の髪が風になびくのを感じる。
エリーは目を開け、海の向こうを見つめた。
今まで逃げてしまっていたが、そろそろエリーは記憶と向き合わなくてはならないと感じていた。
風の音が、エリーを包み込んでくれた。
ウィリアムと共に、ティーナと話そう。
そして――真実を知ろう。