「エリー」
名前を呼ばれ、再び顔を上げる。
違う。エリーじゃない。
――私は、エリーじゃない。
目の前が真っ暗になるような感覚。
エリーは泣きそうな顔をして俯いた。
「……大丈夫か」
頭に乗せられたウィリアムの手が、温かかった。
エリーはどうしたらいいのかわからなくなる。
何も話すことができない。
あのティーナという女性とは何か話をしたのだろうか。
自分が何者なのか、思い出す前に伝えられてしまったのだろうか。
「……私は」
掠れていて、震えた声。
エリーは深く呼吸をしながら、ウィリアムから顔を背けながら、声を出す。
「……私は、誰だったんですか」
そんなエリーを、ウィリアムが優しい眼差しで見つめている。
そんな視線を受け止めることができなくて、エリーは顔を背けたままだ。