「ここからが、大事なところでしょ?」
「……ああ」
「……そうね」
「……? なんですか?」
ティーナが怯えたような顔で三人を見る。
ウィリアムが少し考えるように間を置き、再び口を開いた。
「……彼女には、記憶がありません」
「そんな……!」
ティーナがアンナやダニエルにも視線を向ける。
しかし二人は俯いてしまっていて、ウィリアムだけが真っ直ぐにティーナを見ていた。
「最初にアンナが名前を聞きました。しかし彼女は答えることができなかった」
「海辺に倒れていた理由も覚えていなかったみたいで、私たちも知らないわ。だから何か思い出すまでここに住めばいいって言ったの」
「……レイラ様……」
ティーナが堪えきれないかのように涙を零した。
「あの子、レイラっていうのね」
アンナが切なそうに笑う。
ティーナは涙を流しながら、頷いた。
「こちらでは、エリーと呼ばれていたんですね……」
「ごめんなさい。勝手に名前を付けてしまって」
「いえ……記憶がないのでしたら、仕方ないことです」
自分を落ち着けるように、ティーナはカフェオレを飲む。
喉に上手く流れていかない気がして、ティーナは辛そうに顔を歪める。
「……わかりました。次は、私から話をさせていただきますね」