「何か始まるんですか?」

「……ああ」

エリーはリヒトと顔を見合わせる。
一体、何が始まるというのだろう。

そうして待っていると、辺りは突然、真っ暗になった。


エリーは目を丸くする。
周りで聞こえていた会話もぴたりと止んだ。

すると、音楽が鳴り始める。
それと同時に、公園の泉に再び灯りがついた。

「わぁ……」

感嘆の声を漏らす。

そこには、人魚たちがそれぞれの泉で泳ぐ姿があった。
音楽に合わせ、人魚たちは泉を行き来しながら踊っている。

まるで人魚が空を飛んでいるような光景だ。
エリーはぼーっとその光景に見とれる。リヒトもまた、目を輝かせて見ている。

まるで妖精のようだ。
風の都の妖精たちが風の妖精ならば、こちらは水の妖精と言ったところだろう。

公園の前で待っていた人々が全員黙ってその美しい景色に見とれている。

これが水の都トレーネの祭り、泡沫祭なのだ。

「ウィリアムさん」

少し涙ぐみながら、エリーが声を掛ける。

「……?」

「……綺麗、です」

「……ああ」

ふっと笑うウィリアム。繋いでいる手が、温かかった。