「こんにちは」

すぐ近くで声がして、エリーはビクッと身体を揺らした。
きょろきょろと周りを見回すが、誰の姿もない。

エリーとリヒトは困ったような顔をした。

「こっちよ、こっち」

また声がした。エリーは声がした方を向く。海の方だ。

「やっと気付いた」

そう言って美しく微笑むのは、黒紅色の長い髪を海に浮かべる女性だ。
海から上半身を出しながらエリーを見上げている。

身体にぴったりと沿っているような、透明なドレスのようなものを着ている。

「こんにちは」

少し間を開けて、エリーは挨拶を返した。
しかし表情はまだ不思議そうだ。

「ふふ、人魚は初めて?」

女性の言葉に、エリーは更に目を丸くする。

「人魚、なんですか?」

「ええ、そうよ」

そう言って女性はにっこりと笑う。

そして、身体を少し動かし、海の中から尾びれを出して見せた。
髪の色と少し似ているが、透明感のある黒紅だ。

「あたし、あんたのこと知ってる。エリー、でしょ」

「は、はい。そうです」

「ふふ、あんたの話、水の都まで届いているわ。海で拾われた女の子がいるってね」

「そうなんですか……」

「ええ、あたし達の間では、仲間なんじゃないかって話だったけど」

そう言って女性は肩を竦めた。

「違うみたいね。あんたは人魚じゃなさそうだわ」

「そうですね」

そう言ってエリーはクスッと笑う。
女性はそんなエリーを嬉しそうに見上げている。