「ごめん。落としちゃって」
「い、いいですよ。大丈夫です」
リヒトの仕業だと分かっているエリーは慌てたように答え、曖昧に笑った。
「ウィルとのデート、どこ行ったの?」
「えっと、街の噴水や、風車に行きました」
「そんないつでも行けるような所行ったの?」
「私がお願いしたんです。本の舞台になっている場所に行きたいって」
「なるほどねぇ。それは確かに魅力的かも」
そう言ってアンナが豪快に笑う。
「……なんだか妬けちゃうわね」
「……どうしてですか?」
しみじみ言うアンナに、エリーは尋ねる。
アンナは優しい目をして柔らかく微笑んだ。
「実はね、私、昔ウィルと付き合ってたのよ」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。学生時代にね」
エリーはおそるおそるといった様子で聞く。
「今もお付き合いされてるんですか?」
「いいえ。お付き合いされてないわよ」
そう言ってアンナはふふっと笑う。
「あの……どうして……」
言いづらそうにしているエリーを見て、アンナが悪戯っぽく笑う。
「どうして別れたのか、ってこと?」
「……はい」
アンナは悩むようにして目を伏せ、そして困ったような顔をした。