噴水に映画館、風車に時計屋。
食事は小さい頃によく行っていたという小さなレストラン。
たくさんの場所を見て回った。
全てウィリアムの書いた本の舞台となっている場所だ。
行ったことのある場所もあったが、エリーはその全ての場所を目に焼き付ける。
ウィリアムの見ている世界を共有することができたような気がした。
「暗くなってきましたね……」
寒い季節は、空が早く暗くなってしまう。
名残惜しそうに言いながら、エリーは空を見上げる。
「……そろそろ、帰るか」
「あの、最後に少しだけ、いいですか?」
「……なんだ」
「……海に、行きたいです」
エリーの言葉にウィリアムはわずかに微笑む。
そして二人で海へと歩き出した。
海に到着すると、既に空は夜を告げていた。
海から街へ向かうところにある街灯だけが海を照らしている。
「ここで、私はウィリアムさんに助けられたんですよね」
ぼーっと海を眺めるウィリアムに身体を向け、エリーは持っていた小さな袋を差し出した。
「ウィリアムさん」
「……なんだ」
「いつもありがとうございます。ここでの生活が始まった時から、私はずっとウィリアムさんに助けられてきました。本当に感謝しているんです」
そう言ってにっこり笑う。
別れを告げている訳ではないのに、どこか寂しさが込み上げる。
それはウィリアムも同じなのか、贈り物を受け取ることを躊躇しているようだ。
「私の、感謝の気持ちです」
「……ありがとう」
ウィリアムは袋を受け取り、そしてエリーを見つめる。
「開けてもいいか」
「もちろんです」
ウィリアムは袋から箱を取り出し、そして中を開ける。
そこには、エリーが雑貨屋で買った万年筆が入っていた。
ウィリアムの髪の色と同じ、烏羽色の万年筆だ。
ウィリアムの少し驚いたような顔をして、そしてウィリアムは微笑んだ。
「……ありがとう」
「喜んでいただけたなら嬉しいです」
エリーが嬉しそうに笑う。