「カイ様、そろそろお部屋へ……」

今度はシャールが穏やかな口調で口を挟む。
カイはシャールを見て、苦笑した。

「すまんすまん。じゃあ部屋に案内するよ」

改めて扉を開けるカイ。
その様子を見て、リートが再び口を挟んだ。

「私はもう行く。お前たちはゆっくりしていくといい」

「お前も中でお茶でも飲んでいけばいいだろ」

「明日は祭りだ。のんびりしている程の暇はないだろう」

二人のやり取りに、エリーはこっそりアンナの裾を引っ張る。

「んー? どうしたの」

「カイさんとリートさんって、もしかして恋人同士ですか?」

「やっぱりそう見える?」

「そう見えるってことは、違うんですか?」

「そうね。残念ながら」

肩をすくめて、アンナはエリーの耳元で小さく「カイくんの片思いよ」と言った。
その言葉にエリーは嬉しそうに目を輝かせる。そういう類の話は好きだ。
リヒトはエリーの様子を見て呆れた表情をしている。

「じゃあ、私はそろそろ行く。あとは頼んだぞ、シャール」

「ええ、姉さま。お任せください」

その言葉にエリーは再び不思議そうな表情をする。
近くにいたサラがそんなエリーに目を向けた。

「……シャールは、この宿で働いているの」

「あぁ、そういうことだったんですね」

教えてくれたサラにお礼を言うと、美しい笑みを向けられた。