しかし、断るという意志を出す事に抵抗を覚えてしまった俺は、そのまま阪南の手を握りしめてしまったのだ。阪南はそんな俺に無邪気な笑顔を自然に出す。

「よし! それじゃあ学校終わったら早速学校の近くの川辺に行こ!」
  阪南の表情は、あの無邪気な笑顔のままだった。正直、苦労がかかりそうな日々が続きそうな、そんな感じがしてきた。

 その前に、何故学校の近くの川に行かなければならないのか。俺ば、学校近くの川には一度も行った事がなかった。そのため、阪南の提案に乗る事にしたのだ。

「じゃあ、そろそろお弁当、食べないとね!」

 俺は頷き、お弁当を開く。

 お弁当を食べ終わってからは特に阪南と話すという事は無かった。誰とも話さない時は、何も話さないんだなと当たり前な事を思っていた。

 そんな感じで時間は過ぎていき、今日の授業は終わった。阪南は終わったと同時に俺に声を掛けてきた。俺は荷物をまとめて阪南と共に教室を出て行った。

 近くの川まで行って何がしたいのだろうかと疑問に思った。特に何もすることは無かったのではないかと思っていた。


阪南は、俺の前をガンガン突き進むように歩いている。結構早めのスピードで歩いていたので、俺は急いで彼女を追いかけた。

しばらく歩いていると、阪南は突然立ち止まり、こっちを向く。

「着いたよ!」

 そう言って阪南は背を見せ、一気に駆け抜ける。俺は急いで彼女を追いかけて行った。彼女は足が速いわけではなかったために、すぐ近くまで追いつくことができた。

 俺と阪南は、川辺の道を駆け抜ける。道はアスファルトで整備されていて、ある種の清潔さを醸し出した雰囲気であった。

 横から彼女の顔を覗く。その顔はとても爽やかで清々しい。そんな顔をしていた。阪南は、横からの視線に気づいたのか、こちらに笑顔を向ける。

「せっかくだから競争しよ! あの橋の下に早く着いた方が勝ち!」

 阪南は指を指した。指した先には、橋があった。距離はそう遠くないため、少しは行けるであろう。俺はうんと言うように頷いた。

「……言ったね! じゃあスタート!」

 阪南は同時に橋へ目がけて駆け出す。俺は、その後を追いかけて行く。

 川の隣を駆け抜ける感覚は、とても気持ちのいいものだった。少しずつ、目に見える景色が流れていくように変わっていく。それは見ていてとても楽しいものだった。

 小さい子どもの様に無邪気に彼女は走っている。

 そんな二人を、見つめている様に夕日が俺達を照らしていた。