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 翌日の朝、俺は起きた後学校に行く準備をして登校する。その通学路で偶然阪南と出会ってしまったのだ。

「おはよう! 今日は偶然だね!」

 この流れから考えると、一緒に行くという流れだろう。今日もいつ終わるのかがわからない長話に付き合うのは進まないが、断るのも難しかった。結局、そのまま一緒に通学する流れになった。

「それで、昨日帰った後は家でテレビ見ていたけどあっ、見てたのはなんかたくさん動物が出てくる番組でそこに出てきた動物が可愛かったの! それで……」

 阪南はその番組に出ていた動物を挙げた。しかし、いくら中身を覚えていても肝心の番組名を覚えていなければ、どの番組の話をしているか、こっちは全くわからない。

 しかも、彼女はお構いなしに喋り続ける。一瞬の途切れも無く延々と口から様々な話が続く。どうしてこんなにも続くのだろうと考えたのだが、よく聞くと共通点や関連する単語からその話を広げていくという方法で話が途切れないという事に気づいた。

 一体話題の引き出しの規模はどれだけのものなのだろう。そもそも、良く話してる途中で共通点を見つけ、何の不自然も無く話題を切り替えられるのだろう。ある意味、才能の無駄使いだ。

「……おい」

「で……?」
  
 阪南の動いていた口が止まった。俺の声に反応したようだ。すると、ハッとしたような表情をしながら声を上げる。

「……あ! 昌弘君やっと声上げてくれた!」

 そう言うと、こちらに目がけて抱き着いてくる。思わず、俺は受け止める。

「やっと! やっと! 君の声聞けたよ!」

 阪南は、よくはしゃいでくる。こちらとしてはここまではしゃいでくるとは考えもしなかったのだが。

 声を出した原因は耳に常に雑談の音がこちらに向けて聞こえるという感覚が耐えられなかったがためなのだ。
 つまり、無意識で発した事だった。

 しかし、阪南の行動がきっかけだったのか。周りに居た俺達と同じ制服を着た奴らがこちらに注目してきているのだ。
 俺は、慌てて抱き着いてはしゃいだままの阪南を落ち着かせ、急いでその場を去るように誘導させた。このまま阪南を切り離す事はとてもではないがする勇気がなかった。

 この時、阪南に言っておきたかった事があったのだが、結局このタイミングでは言いそびれてしまい、結局言っておきたかった事は昼休みに弁当を食べ始める前のタイミングであった。

「……えぇ! そんなに私、ダメだった!?」

 そして、その言っておきたかった事に対して彼女はこう反応したのだ。そして、その言っておきたかった事とは、彼女の行動についてだった。

 昨日や始業式の時から思っていたことだが、彼女がとんでもなくしつこいという事は目に見えていたのだ。彼女を知るきっかけになったあの出来事もまさに彼女のしつこさが原因で起きた事であった。

 俺はその反応に対しての答えとして首を縦に振る。すると、阪南は悩んだような表情をする。

「……だからかな? みんな避けるのって」

 よく考えたら、かなり地雷な話題であったと後悔する。しかし、このまま放っておくと更に皆から避けられる羽目になるのは目に見えていたがために、言っておきたかったのだ。

「そっか、なら昌弘君がコミュニケーションの取り方を教えてもらったらいいよね!」

 阪南は唐突にそう言ってきた。俺は急いでノートで伝える。

『何で俺が?』

「だってあなた位しかいないじゃん。 ちゃんと私の話を聞いてくれる人」

 露骨に拒絶をしなかったがためにそう思われていたようだ。こっちは好きで長すぎる話を聞いている訳ではないのだが。

「という事で、よろしくね!」

 そう言って、阪南は手を握るのを求める様に手を差し出す。ここで手を握ってしまったら、阪南に協力しなくてはならない。それを了承するのはどうも気が進まない。