次に、紙をちぎって阪南に渡す。

「う~ん、そっか。 なら仕方ない」

 意外と素直に聞いてくれたな、とは思ったがそんな事言っても仕方がないのでそのまま帰っていこうとした。しかし、何か強い力に引っ張られる。

 後ろを向くと、阪南が俺の腕を引っ張っていた。

「ちょっと待って、渡したいものあるから」

 何を渡したいのか。そんな疑問を伝えようとする前に、阪南は自分の席まで行く。すると、何か紙らしきものを取り出して、書き始めた。何を書いているのかはわからない。

 仕方ないので少し待つ。すると、書き終わったのか、阪南は俺の方に戻ってきた。すると、一枚の紙きれを渡してきた。

「これ、私の家の電話番号。 掛けても掛けなくてもいいけど、一応貰って置いといて」

 よく見ると、その紙きれには恐らく阪南の電話番号らしき数字が書かれていた。この年齢になってくると連絡先の交換はメッセージアプリなどでするようなものなのだが。そんな些細な疑問を持っていると、阪南は口を開く。

「……私さ、ずっと話を聞いてくれる人と出会った事がなくてさ、昌弘君みたいにずっと話を聞いてくれている人がいて嬉しかったなって思って」

 一方的に自分の話をしているから誰も話を聞いてくれないのではとは思うが、阪南にはその考えが浮かばないのだろう。

「じゃあ、今日も別々ということで! じゃあね!」

 そう言って、彼女はそのまま教室から走り去っていく。廊下の窓からは町並みが広がっている。その町並みは薄い橙色に染まっていた。

 この景色は中学1年の時からずっと見ていたがために、特に美しいとは思わなかった。特に今日は疲れていたので、よりどうでもよかった。

 とりあえず、俺は家に帰るために下校する。その道中、ふと電話番号が書いてあの紙切れは一体何の紙なのだろう。何となく裏を見てみると、何か文字が書かれていた。

 その文字はとても見覚えのあるものであった。

「……な!?」

 思わず声を上げる。何故なら、その紙はついさっき俺がちぎって阪南に渡したノートの紙切れだったのだ。俺の書いた紙切れを都合良く使ってしまう彼女は躊躇というものがないのだろう。俺は、寄り道をせずまっすぐ歩いて家に帰った。

 阪南の電話番号を書くのに使われた俺のノートの紙切れは机の上に置いた。それからは特に何事も無く眠りに入っていった。