「……なるほどねぇー」

 背中で腕を組んで、そう言った。そして、何か一人で納得したかのように頷いた。

「あの……」

 思わず、何か言おうとする。しかし、喉から出かかったそれは、出る事は無かった。何か言おうと思ったはずなのだが、わからない。

「所で……」

 亜美さんは話を切り出してくる。俺は、亜美さんの方を見やる。

「阪南さん……なんとなくそうなってしまうのわかると思う」

「……え?」

 思わず間抜けな声が出た。あれだけで何故わかると言えたのかが、とても驚いている。

「彼女、もしかしたら我慢していたのかもしれないよ」

  *

 携帯電話が鳴っている。確認をしてみると、それは彼からの電話だった。多分、心配して掛けてきたのだろう。しかし、私は電話に応じなかった。

 あの日から、彼らとは話すらしなくなった。今、どうなっているのかは私にはわからない。2学期に入ってから学校にも行ってないし、行こうと思えなかった。彼、昌弘の事を考えたら、行きづらくて仕方がない。

 一体彼はどう思ったのだろう? 私には確かめる術が無かった。

「神子、準備進んだ?」

 お母さんの声が扉越しから聞こえる。私は「進んでるよ」と返した。

「……そう」

 お母さんはそれだけ言った。その後に足音が少し聞こえたから移動したらしい。

 お母さんが言う準備は、引っ越しの荷造りだ。確かに進んではいるが、順調とは言い難かった。

 現に部屋の中は荷物分けの際に放り出された小物などで散らかっている。さっさと片づけはしたかったが、そう思うだけで実行する気力はほとんどない。

 憂鬱な気分だ。そう思った。何度も何度も繰り返し、思った。

 このままでは行けないと思って外の空気を吸うため、窓を開けてみる。外はすっかり秋景色で、紅葉が道にいっぱい落ちていて春や夏の時はアスファルトで単調な色彩だった道は、無数の色で鮮やかに彩られていた。

 変化を見れるのはこれで最後かと思うと少し切なかった。

 そして、彼の顔を思い出す。あの時見た、驚きと困惑が混ざった……。

 そこまで思い出して、私はやめた。思い出せば思い出すほどつらくなってしまって仕方なかった。私は改めて引っ越しの準備に取り掛かり始める事にした。