仕方ないので、俺も神無月の後に続き、ドアを開ける。
「いらっしゃいませー……あら? 久々に来たと思ったら、今日は二人?」
店主の亜美さんが、笑顔で来店した俺達を向かい入れる。しかし、俺達の様子を見てから納得したような、そんな相槌を入れる。
「それでは、どの席にする?」
「それじゃ……あそこで」
神無月はテーブル席にすると言いだした。そこはいつも阪南が選ぶ、あのテーブル席だったのだ。
一体彼女は何を伝えたいのか? 真意が一向に伝わらなかった。いや、わかっていたのかもしれないが、理解しようとは思えなかっただけなのかもしれない。
神無月はこちらに向く。そして、
「――文句はないでしょ?」
確認を取ってきた。俺は、とりあえず頷いた。神無月はそれを見てすぐにテーブル席の方に向かっていった。
「……ねえ、阪南が転校するって本当なの?」
席に着くなり、神無月は話を振ってくる。しかも、一番したくない話題に。とても答えに困る事だ。思えば、答えなんて一つしかないのだが。いや、むしろ一つしかないからこそ困っていたのかもしれないが。
「……あんたは、一体どうするの?」
神無月から出た言葉は予想外のものだった。
「阪南が転校する。なのに、このまま何もしないで終わるの?」
少し耳が痛い。体が固まって動かそうとしても動かせない感覚。そんなファンタジーなどでもなければ起きない様な事が、起きている気がした。
「……ごめんなさい。私、どうも遊園地に遊びに行った日から気がかりだった事だから」
気がかりになるのも少し、わからなくなかった。俺達はあの日から疎遠になった。あの微妙な距離感がどこか近寄りがたくて、誰も近づく事の無い事だったのだろう。
1学期の頃のたくさんの出来事は充実していた生活だったのかもしれない。
「だって、あの日から秋が私達の事避けるようになって……それから、みんな離れ離れなんだよ」
今は違った。
秋が俺達の事を避け始めたのに気づいてから、俺達の間には大きな壁の様なものがふさがっているようなものだった。
「……」
それからお互いが何か話をするということはなかった。他愛のない話をしようと思えなかったし、今のこの状況をどうするかなんて話し合ってもすぐに壁にぶつかるかもしれなかった。
簡単に言えば、恐れていた。それがとても似合っていた。
「はい、二人とも」
横から声が投げかけられる。亜美さんだった。
「多分、夏休み中に何かあったんでしょ? しばらく来なかったし、来たと思ったらあなた達二人だけだった……しかも、ぎこちない空気だった」
それを聞いて、なんとなくわかった。亜美さんはずっと俺達の事を見ていたのだろうと。
「幸い、今は他のお客様はいないし、相談いけるよ? 常連のあなた達への特別サービスだからね」
パンと亜美さんは手を叩くと「さあさあ」と笑顔でこちらの返答を待っていた。俺は前にいる神無月に目を配らせる。神無月の目は自分で決めろと訴えかけてきた……様に見えた。
「……それじゃ、少しお願いします」
「はい、わかったわ。それじゃ話、聞かせてもらうわね」
この問いかけで、少し安心したような気がした。俺は、事情を亜美さんに話す事にした。