*

 それから、阪南から電話が掛かる事は無くなった。自分から掛けようとしても、相変わらず出なかった。

 夏休みの残り1ヵ月、毎日電話を掛けた。朝早く、昼間、まだ浅い夜の時間帯。電話をかけても出ない。どうしても出ない。

 おかしい。家に掛かっているのなら、家の人が出てもおかしくないのに。まさか、阪南が渡してきたのは、自分の携帯電話の番号だったのでは? そんな可能性が頭によぎった。

 そういえば、たまに電話を掛けた時にいつも電話に出るのは阪南ばっかりで、家の人が出た事は一度も無かった。


 阪南に電話がかからないまま、夏は過ぎていき、2学期が始まった。

「おう、……お前何か元気ないぞ?」

「……そうか」

 拓海は何かあったのかを察したのだろうか。俺にはわからない。2学期の始業式、阪南は学校にまだ来ていない。

 一体どうしたのか、聞かなければならない。電話以外で彼女に話せる、唯一の最後なのだから。

 チャイムが鳴り、俺は席に座る。と言っても、その席は1学期の終業式に決めた席だったので、1学期とは違う所だ。

 しばらくして、先生が入る。先生は最初に連絡があると伝える。

「――阪南神子さんの事なのですが」

 先生が、阪南の事について挙げる。一体どういうことなのだろう。次の瞬間、その意味が嫌でもわかってしまった。

「――Ⅰ0月に北海道に転校する事になったそうです」

 クラス中が少しざわつく。それからしばらく、どう過ごしたのか覚えていない。