「ねえ……あんたどうしたの?」
神無月が阪南に言う。阪南は「なんでもない」という様に首を振った。
「あんた、何かおかしいよ、絶対」
「おかしく、ないよ……」
声がよわよわしかった。すると、神無月は机に手を叩きつけて立ち上がる。驚いたが、それは周りも同じだった。
「おかしいよ! 朝、あんなに元気あったのに何で今元気ないの⁈」
「せ、先輩周り、周り見てください」
神無月が机を叩きつけた音で周りがこちらに視線をちらつかせていた。神無月は周りの様子に気づいて、椅子に座りなおす。
「とりあえず、おかしいから。何がどうしたの?」
「何でもない、何でもないから……」
阪南はそれだけしか答えなかった。多分、皆俺と同じ事を思っているのだろう。
昼食の時間は、どこか重たかった。皆黙って、自分が頼んだ料理を食べている。阪南は、すでに食べ終わっていた。
昼食の後の時間は、最悪だった。6人の間の空気は悪く、ただ一つだけわかる事はこのままでは行けないという事だった。皆が空気を良くしようとあれこれしているが、一向に良くならない。阪南はますます元気さが無くなっており、ついには何も話しかけなくなってしまった。
「…………」
夜が近づく頃には、誰も何も話さなかった。俺達の周りは、とても張りつめた冷たい空気で覆われている様に、周りと差があった。
結局、その日は夜の一大イベントを前に帰る事になった。誰も、長居したがらないのだろう。最初に神無月が帰っていって、次に秋。そして、田月と御崎さんが一緒に帰ったのを最後に、俺は阪南と二人だけになった。
「………………」
帰りのゲートの先でたった二人だけでいた。だが、無言が続いた。お互い、何も話そうとしなかった。
ただ、重い空気が流れ込んで、少し息苦しかった。いつまで経っても阪南はいつもの様な元気を取り戻さない。俺の複雑に渦巻いた感情は限界に達していた。
「……お前、どうしたんだよ」
俺は声を出す。阪南に対して、多分答えもしない事を聞いた。
「どうも、どうもしてない。してないよ」
「してるだろ、だってお前元気ないだろ」
「そんなことない……」
「そんなことあるよ」
「ない」
「ある」
一瞬、阪南が声を上げようとしたが止まった。俺は阪南の顔を見る。彼女の顔に、水滴の様なものが付いていた。俺はしばらくして、それが涙である事に気づいた。
「あるよ……! あるから……! お願い……!」
阪南が涙を流しながら切実に訴える。俺は何も言えなかった。何か言おうとしたのかもしれないけど、それが口に出る事は無い。
「あるから……! あるから!」
言い出した途端、駆け出して行った。俺は阪南を追いかけようとする。が、足がすくんで動かなかった。いや、動けなかった。
夏の遊園地のゲートの先は、明かりが照らしていた。ただ、それだけだった。