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「……」
電話をかけるが、誰も出てこない。これで何回電話を掛けたのだろうか。
時刻は19時52分。これ以降はあまり電話を掛けれる気がしなかった。あの後、阪南に電話を掛けようと試みたのだが、一向に電話が掛かる気配はない。
一体彼女はどうしてしまったのか。他のメンバーにも電話を掛けたいが、生憎阪南しかわからない。なので、直接会うしかない。
今日、突然の変化を遂げた阪南。俺はとても心配で仕方ない。彼女の身に何があったのだろう。いや、実は今までのは冗談なのかもしれない。少し悪質な気もしないが、そうだと思いたい。思いたかった。
だが、あの様子から冗談だとつなげる事は出来なかった。こんな時、どうしたらいいのか。考えて考える。事情を聞く、あえて聞かずに見守る? それとも、彼女が元気になれるような事をする? 色々考えたが、どれもうまくいける気がしない。
結局その日は彼女に関する事を考えるのをやめた。これ以上考えたら、心が保たないと思ったからだった。約束の遊園地に遊びに行く日は8月初め。ちゃんと遊びに行けるのだろうか。
不安で仕方が無かったが、その不安は当日、杞憂に終わった。
当日は、快晴で見渡す限り青い空が広がっていた。絶好の遊び日和で、これなら安心できるのだろうと思った。
俺は今、遊園地のゲート前に居る。話し合いでは、ここで待ち合わせだったのだが、まだ誰も来ていない。少し早かったのだと思う。
それからしばらくして、田月と神無月が来た。二人は偶然同じ電車に乗ってきたらしい。その後、秋が来てそれからしばらくしてから御崎さんが来た。
阪南は最後にやってきた。
「ごめーん! 遅れたぁ!」
終業式の日と違い、この日の阪南はいつも通りだった。だが、なんとなくそれは作っているようにも感じ取れた。
「神子先輩、遅かったですね」
「ごめんね~。ちょっと用事があってねー……」
「……用事ってどんな事か?」
俺が聞くと、阪南は肩をすくめる。少し、笑顔がぎこちなくなって阪南は「なんでもない」と答える。
「……そうか」
そうは言いつつも、頭の中では納得できなかった。明らかに様子が変なのに、それを明かさないのはおかしいのだと思った。
「……まあ、今日は遊園地に遊びに来たんだし、めいっぱい楽しみましょ」
神無月がフォローをする。確かに、初っ端からこれでは雰囲気も台無しだった。今日は楽しみにもしていた遊園地に遊びに行く日なのだ。めいっぱい楽しまなければ。
遊園地のゲートをくぐってからはやる事は一つだった。皆が行きたいアトラクションに行ったり、たまに別行動を取ってアトラクションをそれぞれ楽しんだり、園内の食べ物を買ったり……。そんな感じで、遊園地を楽しんでいた。
他愛もない会話、賑やかとした人並み、晴れやかな天気。どれもが、完璧だった。完璧だったのに、ただ心の中に引っかかる事がある。阪南の事だ。
アトラクションが終わる度に、少しずつ元気が無くなっていった。少しずつ、少しずつ。いつもの彼女ならそんな事にはならないのに。
苛立ち、悲しみ、心配、不安。それらの感情が心の中を複雑に絡み合っていく。どうして、阪南がおかしくなっているのに、何故何もできていないんだ。
間違いなく彼女に何かある筈なのに、阪南は何一つ喋ろうとしない。皆、阪南の様子がおかしいことに気づいているのに、何故彼女は何も語ろうとしない。
そんな複雑な気分を抱えたまま、時間は昼に突入した。神無月がそろそろ昼食を食べるべきと意を示し、近くにあった園内レストランで食事をする事にした。
「おいしそうなのが、いっぱいありますね」
御崎さんは感嘆をもらす。その感嘆に対し、田月が答える。
「確かにおいしそうだと思います。高いですが」
一言余計過ぎるが、それが現実であった。遊園地内にあるレストランなだけあって、感覚で言ったらぼったくりな価格設定のものがたくさんある。
「変にお金使い過ぎないでよ。いくらでも沸いてくるわけじゃないんだから」
神無月が注意を促す。流石に金額はそこまで自由では無かったらしい。俺は苦笑した後、阪南の方を見る。阪南は、顔を下に俯かせていた。
皆、注文を終わらせると、会話に入る。
「ここのアトラクション、とてもよかったですよ!」
「僕は絶対ここ行った方がよかったと思うけどなー」
「ダメよ、ここは外せないから除外よ除外!」
「いやいや、それは酷いだろ……」
昼はどのアトラクションに行くかという話で盛り上がっている。皆がそれぞれ行きたい場所を挙げ、行けるかどうかの話し合いをし、そして決定する。それだけなのに、何故か心は踊る。しかし、完全とまではいかない。
「あの、神子ちゃんどうするの?」
「え……ああ、好きなのでいいよ?」
阪南は御崎さんに声を掛けられた時、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで答える。
阪南が自分から喋らなくなった。皆たまに阪南に声を掛けたりしているが、返答は少し何かを言うだけで、それだけで終わってしまう。
驚くぐらいの変貌だった。一体何が彼女をそんなにさせてしまったのか。