――想いを伝えたい。

 でも、どうしたらいいのだろう。素直に声で? でも、勇気が出ない。手紙で? それでもいい。でも、どうやって届けたらいい? もう、私達はバラバラになってしまったのに、どうやって?

――私は、この心とどう向き合っていけばいいの?

 誰も答えてくれる人はいない。自問自答を続けている。周りには人がいるはずなのに、その問いをしてほしいのに。私にはそれを言う勇気が無い。


  *


 あの激動の1学期も後は終業式を残すのみになった。ひと月に一回は何かしら大事が起きたが、それらは無事に解決して臨んだ期末テストもいい結果で終わった。

 一応、他のみんなにも聞いてみる。大体結果は何となく納得するものだった。阪南は勉強時間増やさないと、と嘆いていた。

 俺は、阪南に夏休みはどうするかを聞いていた。すると、阪南は「みんなでどこかに遊びに行ってみたい!」とワクワクしながら答えた。何でも、とてもしたい事らしい。放課後にそれを俺以外にも話をしたという事らしいが……

「……この6人なのか?」

「? そうだけど」

 イマイチ質問の意図がわからない、という様な顔をしている。少なくとも俺には不安な要素しか出てこない。御崎さんに田月、秋と神無月。そして俺と阪南。この6人でどこかに出かけようと阪南は提案してきたのだ。俺や阪南はともかく、他のメンバーは友人がいる。なのに、誘ってはいけないというのは少し理不尽ではないだろうか。

「せめて、阿須和さんはダメなのか?」

「ごめん、何というかこれ以上人が多くなったら色々大変だと思うから、6人で行きたいの……」

 阪南は頭を下げる。そんな大げさにやられても困るので、頭を上げさす。

「まあ……そこまで言うならそれでいいけど……、んでどこに行くんだ?」

「それは、これからだよ」

 まあ、その線もアリではあるか。みんなで話し合ってから行く場所を決めるという事なのだろう。察しはつく。

「それで、他の皆には次の土曜日に喫茶店で集合する事にしてるから」

 俺は首を頷かせる。次の土曜日……それは、1学期最後の休日の始まりだった。その日に、あの喫茶店に行くという事だろう。

「へへっ、喫茶店行くの久しぶりだよね」

 阪南は感慨深そうに、喫茶店の事を話す。そういえば、あの喫茶店は5月以来行っていない。理由としては金銭的な問題が挙げられた。要は、中学生が何度も喫茶店に行けるぐらいのお金を持っている訳が無いという事なのだ。

「じゃ、次の土曜日に……また」

 この会話はそこで終わった。その後はいつも通り二人で帰っていった。そして、いつもの交差点に着いた。3か月ちょっとじゃこの交差点にあまり変わりは無い。強いていえば、草木がとてもキレイな緑色一色になって虫を見かける事が増えた事……だろうか。

「それじゃ、また今度ね」

 阪南は手を振って、いつもの横断歩道を渡っていく。俺はその背中を見送っていった。ある程度阪南が遠くなっていくと、横断歩道の信号は青になっていた。俺は、そのまま横断歩道を渡っていく。途中、車が曲がって通ろうとしているのが見えたので走って向こうまで渡った。

 最近は陽がなかなか落ちなくなった。外が明るいと、安心感を得られる事ができる。代わりに少し暑くなり始めて来たが。

 歩いていると、少しずつ声が聞こえる。それは、子どもの声だ。帰り道を進めば進む程、声は大きくなる。声の主が居たのは、俺の家と対極的に位置する公園だった。

 子ども達は全員で3人。公園にはこの3人の子どもだけで、それで俺はこの辺りに住んでいて、恐らく小学生なのだろうと思った。

「わ~! 待て~!」

「待たないよーだ!」

 様子を見る限りは追いかけっこで遊んでいるようだ。正直声だけを聞いたら、いじめか何かと思っていただろう。

 しばらくすると、子ども達は公園から出てどこかへ行ってしまった。俺は、その様子を見届けると家のテレフォンを鳴らした。

「ん~おかえりー」

 家から帰る度に聞くその言葉に対し、「ただいま」と返した後は最初に手を洗ってうがいをしている。次に自分の部屋に入って服を着替える。

 一連の作業を終わらせると、外は少し暗くなり始めてきていた。俺は、部屋の電気を点けた後、のんびりと残りの1日を過ごした。