翌日の朝も、二人はいがみあっている。
「あんた! 今日も⁉ 何回言えば気が済むと思っているのよ⁉」
「だから違いますよ! 何回言えばいいんですか⁉」
日に日にどんどん悪化していっている様子な気がする。このままじゃ大事になりかねない。やはり、何か行動を起こした方が良いのだろうか。
教室に着くと、阪南はもう自分の席に着いていた。窓の方を見ている様だ。
「おはよ」
俺に気づいた阪南は、こちらを向いてくる。その顔はいたって普通だった。
「おはよ!」
すると、笑顔で挨拶を返してくる。多分、笑顔はポーカーフェイスだろう。俺は、カバンを机の横にかけて、席に座る。そこに、
「あの、おはようございます江口さん、神子ちゃん」
御崎さんがやってきた。どうやら、今日も田月と何か話をしに来たのだろう。
「おはよ、夢ちゃん」
「おはよ、今日も田月と話しにきたのか?」
俺達も挨拶を返す。次いでに、俺は今日も田月と話をしに来たのかを聞いた。
「はい、……二人ならいいかな」
何か、考えてから御崎さんは改めて、話をする。
「実は、明日の放課後は商店街を歩きに行こうって話をしてまして……」
この1ヵ月でここまでになっていた事に驚いた。まさか、ここまで来ていたとは。
「すごいね‼ そこまで行けるなんて‼」
「うん……!」
阪南の嬉しさに同調して、御崎さんは少し微笑んでいる。これぐらい明るく過ごせるのはなんとうらやましい事か。
「そういえば、江口さん達は今どんな感じなんですか?」
それを聞いた俺は思わず固まる。阪南は素直に、
「ああ~、ちょっと知り合いがなんかトラブルに巻き込まれたからちょっと解決しようと話しあってたの」
と答える。ちょっと待て、それ完全に語弊がある気がするんだが。
「……それってどんなトラブルなんですか?」
「簡単にいえば、言いがかりをつけられた? 感じですね」
俺としても、知っているのはこの事ぐらいだ。それに続き、口論はほぼ毎日の朝起きていて、二人とも限界そうな様子だったという事を話した。
「そうなんですか……私、早く着くので知らなかったです」
彼女が学校早めに行くタイプの人間だったのは少し意外ではあったが、まあ朝起きると言っても、開始15分前とかそんな時間に起きるので朝早い人が気づかなくてもまあ納得はできる。
「へえ~……夢ちゃん朝早いんだ」
阪南は感心した様子で話した。俺達はいつも始まるちょっと前ぐらいに着くのもあるが。
「うん、いつも6時50分ぐらいには学校にいるよ」
「え、早」
1時間何して待っているんだ……。その速さに驚いてはいられない。
「……御崎さん、どうしたんですか?」
「あっ、田月さん」
気づいたら田月が教室に来ていた。御崎さんは田月の声に気づき、挨拶を返す。
「昌弘くんも、阪南さんもおはようございます」
「ああっ、……おはよう」
「おはよ~……ねえ、ちょっと他人行儀すぎない? 神子って呼んでよ~、後敬語やめて!」
「嫌です」
即答されて、阪南は不服そうな様子で口の中を膨らませた。その様子をスルーして、田月は御崎さんに声をかける。
「僕に話ですよね? ちょっと廊下行きましょう」
「あ、はい……じゃあ行くね」
そう言って二人は教室から出て行った。しかし、妙に他人行儀な会話だったな。そして、一つ気になる事が。
「……お前、敬語で話されるのいやなのか?」
「嫌だよ、なんか距離置かれてると思うじゃんか」
そういうものなのだろうか。正直すぐに素で話されると、俺は困惑すると思う。
「んで、今日も俺の家に行くのか?」
「もちろん!」
やっぱりか。今日も母にニヤニヤされる羽目になってしまうのか……。気分が重い。そんな俺の様子をこっそり何人かが見ているような気がしていた。少し、哀れみがこもっていた目線だった。