「実はさ、最近後輩の友達出来たんだよね」

 6月中旬の昼食中、阪南からいきなりとんでもない発言が飛び出してきた。この間の御崎さんと田月の件の始まり方と似ていたので、少しげんなりとする。

「……それって、いつの事だ?」

 意を決し話しかける。いつ起こったのかが一番知りたい事だ、俺はこの時まで一切何も聞いていない。

「んとね~……5月の始めくらいかな? ……むぐっ」

 口に食べ物を含んだまま、語り始める。口から食べ物無くしてから語ってほしい。しかも、最近と言いながら1ヵ月半程前の話じゃないか。

「昼休みにちょっと後その輩君とぶつかったわけよ」

 何故ぶつかったのだろう。2年と1年の教室は階が違うからぶつかることなんてないはず。阪南はそれに気づいたのか

「……ちょっと用事で先生に会いに行くときだったの。ちなみにその先生は1年の担任だったの」

 どちらかというと後者がとても重要だが。とりあえず、阪南の方が1年の担任の先生に話があるために、1年の教室周辺を歩いていたという事か。

「んで、その会いに行く途中で後輩君がぶつかってきたわけよ。それでそのまま用事に付き合わせたの」

 なんて迷惑な事を後輩にしているのか。それが喉から出そうだ。

「まあ、それは結果的に正解でね、その先生と後輩君が仲良かったから、後輩君が話をつけてくれたわけよ」

 それは一人でも大丈夫なのでは?と思ったが、そういえば阪南が言う用事が具体性のない抽象的なものだった事があった。結局、その場は俺がなんとか話を付けたので、なんとかなったが……。

「まあ、そんなわけでお礼しようと思ったら、後輩君凄いスピードで走り去ったの。まあ、理由がトイレ行こうとした所を無理やりつき合わされたので、限界になったかららしいんだけど」

 一体何をやっているんだ。聞いている限り、阪南がとても最低な事をしているくらいしか感想が思い浮かばない。

「まあ、それからたま~に行くようになったんだよね、後輩くんのクラス」

 そういえば、あの件以来たまに阪南が教室から出る事があった。なるほど、そういう事だったのか。

「俺が言える事としたら……もうちょっとその、後輩くんが、今どういう感じか、考えた方がいいぞ……」

「んえぇ⁉ 何で⁉」

 阪南はとても驚いた様子だった。その反応は流石に無いだろう。そんな他愛の無い話だった。いや、正直そう思いたい。何故なら、この間の御崎さんと田月の恋の協力だって、こんな始まり方だった。今回はそうじゃなければ良いのだが……。

「あの……すみません」

 すると、教室外から誰かが声を掛ける。後ろを向くと、そこには御崎さんが居た。

『御崎さん』

 ノートを掲げている俺に気づき、御崎さんはこちらへ向かってくる。

「あ、江口さん。豊くん、いませんでしたか?」

『……いや、今はいないな』

「……そうですか。ありがとうございます」

 そう言って礼をする。いちいちそこまでしなくても大丈夫だと言ってやりたい。

「……そういえば、最近は神子ちゃんと話してる時はちゃんと話すようになったんですね」

 御崎さんは、俺の変化を指摘した。……口でちゃんと話す事が増えたのか、俺には良くわからなかったが。

「確かに、最近お前阪南と話す時だけ口数増えたなー、って思ってたんだよ」

 拓海が乱入してくる。お前も入らなくていいだろ……そう言いたかったが、ぐっと我慢した。

「おっ、御崎ちゃん。今日も田月のやつと?」

「あ、はい。でも、今日はいないみたいなのでまた」

「おう! じゃあな!」

 そんなやり取りで、御崎さんは自分の教室に戻った。というか、拓海と御崎さんいつの間に仲良くなっていたのか。

「んじゃ、俺は席に戻るわ」

 拓海は手を振って自分の席に戻る。俺は、拓海に合わせて手を振った。

「……」

 阪南は、無言のままじっと俺を見ているのに気づく。一体どうしたんだよ。そう言いたげな様子を察したのか、阪南は理由を述べる。

「なんか、昌弘変わったなって。4月の時からずっと一緒だけど、なんか違う」

 阪南までそんな事を言うか。俺は変わったとは思ってはいないが。むしろ、お前が変わったと言いたいぐらいだった。

「……トイレ行ってくる」

 そう言って、足早に教室から出て行った。本当は対して、トイレに行くほどの事が無いのだが、それぐらいしか理由付けするものが無かった。すぐに戻るわけにはいかないので、しばらくしてから戻る事にした。