「あの……、田月さん」
「……ん?」
俺が声を掛けると田月はこちらを向いた。眼つきが妙に鋭くて少し怖気そうだった。それでも、逃げたいという気持ちを抑え何とか昼ごはんを誘う様にする。
「その……お昼、……どうかなって?」
「突然何言い出すんですか?」
痛い所を田月は突然付いてきた。ここで、ばれたら大変な事になる。そうさせないために何とか理由を引き出す。
「その……友達が居て、その友達が……折角だから、誰か誘おうってなって……それで、田月さんならいけるかな……と思いまして」
「……」
しばらく無言が続く。これは失敗してしまったのか? そんな心配事が思い浮かんだ。
「……いいでしょう。それで、その人とはどこで食べる事になっているんですか?」
成功だった。心の中で安堵するが、ここで止まってはいけない。俺は御崎さんが昼食を食べる場所に指定した場所に行くのが次の行動だ。
「案内するので、……付いてきてください……」
なんとか田月を連れだす事に成功したので、御崎さんの待っているグラウンドの近くにあるベンチまで田月を誘導する。
途中、『どこまで歩けばいいんです?』と言った質問にひやりと背筋が凍りそうになったりもした。グラウンド付近のベンチは俺達の教室からだと少し距離があるので、妙に遠いと感じたのだと思う。
グラウンド付近まで着いた。校舎と直接繋がるその場所は、ベンチがある場所は地面が石のタイルになっており、いくつかに木が植えられている。……そんな感じだろう。
「……あっ」
御崎さんの口が少し開いた。そこには俺と田月がいたから、どちらかというと田月が来たと言う方に反応したんだろう。
「……」
田月は無言だった。表情の変化も無く、彼がどう思っているのかよくわからない。
「そ、その、突然すみません……」
「……どうも」
少し、ぎこちなさを感じさせる。俺は仲介して話を継続させるしかないか。
「ま、……まあとりあえず弁当食べよっか」
「あ、はい」
御崎さんの賛同に合わせ、田月も頷く。そして、弁当を広げてから3人で食べる事になった。
「……」
会話は一つも出てこない。誰からも、何も出てこない。何を話したら良いのか俺にはさっぱりわからない。このままだと、余計に気まずくなるのは確実だった。
何かしなければいけない。だが、何か話したところでそれが解決できるかどうかは微妙だ。何か良く喋る誰かが居ればこの場を盛り上げられるはず。
「……あれ? 昌弘、どうしたの」
……その声を聞いた瞬間誰かわかった。阪南だ。何故、このタイミングで現れてくるのか。校舎の方に居た阪南は、そのままこちらへ駆け出してくる。
「阪南さん……? 何でここにきているのですか?」
「……あ~、ちょっとね。それより、昌弘ッ」
俺は阪南に引っ張られるようにその場を一時的に離れる。そして、阪南はこちらに振り向く。
「ちょっと! 何であんなに気まずい空気になっちゃてるの⁉ どういうことなの⁉」
かなり焦っている様子だった。丁度いいタイミングで来たので、例の事を伝える。