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 「……しかし、豊くんは本当に気難しいから、うまく行く方法がちっとも思いつかないな~」

 私の親友である、ゆいちゃんはそう言った。彼女が田月くんと仲が良いという事を聞いた事が無くて、正直驚いてる。

「あ、でももしかしたら偶然が重なったら豊くんと夢ちゃん、くっつくチャンスあるかもよ⁉」

 ゆいちゃんは私にフォローを入れてくれる。そこまで繊細だと思われても仕方ないのは自分でもわかっている。ゆいちゃんに気を遣わせてるって思っている。でも、やっぱり自分からは踏み出せなかった。

 
 私には今、好きな人がいる。田月豊くんっていう男の子なんだけど、みんな彼の事が苦手なようで、彼に関して聞くのは、

 何か、不機嫌で怖い。

 今では素直じゃないと言われている事もあるけど、未だに仲のいい女子のメンバーも、周りで騒いでいる男子も、みんな田月くんの話になると、そう言う。でも、私はわかっている。彼は、怖くない人間だって事を。

 あの時、神子ちゃんが言ってた。

『夢ちゃんって、どうして田月くんの事好きになったの?』

 私、それを言うのが恥ずかしくて言えずに終わってしまった。でも、言うのはやっぱり恥ずかしいし、それを聞いた誰かがその話を広げられたらって考えたら……怖くて言えなかった。


 私が彼を好きになったきっかけは、去年の11月だった。私が、ゆいちゃんと出かけた際にペンダントを失くした事があった。

 ペンダントはいつも家に大切に置いている。去年の様にまた失くしたらと考えたら、怖くて外に持っていけない。

 そんなことよりも、彼が好きになった時の事だ。ペンダントを失くした時は、とても焦ったのだ。ペンダントは私が大好きだったお婆ちゃんから小学4年生の時に貰った大事なペンダントだったからだ。

 お婆ちゃんは、私が小学5年生の時に亡くなってしまった。私はお婆ちゃんの形見であるペンダントをとても大事にしていた。

 あの頃は、たまにペンダントを着けていたりしていた。その時も、ペンダントを着けて外出していったのだ。そして、帰る時に気づいたら無くなっていた。


 その時、私はパニックになった。折角お婆ちゃんが私にくれたのに、何故失くしてしまったんだって自分を責めた。その時、ゆいちゃんが出かけてから行った場所を探せば見つかるから頑張って探そうって励ました。

 私は、ゆいちゃんの言う通りに探した。でも、見つからなかった。その日はゆいちゃん、帰った後に用事があるって言ってたのに気づいた。ゆいちゃん、私のためにその用事を遅らせようとした。

 ゆいちゃんの厚意はありがたかった。けど、その用事はとても大切な事だったから、私は一人でも大丈夫だから、ゆいちゃんはそっちの方に行って、と言った。ゆいちゃんはそんな事はできないと、なかなか譲らなかった。

 それでも、私はゆいちゃんに大切な用事をやってきてほしいって思った。私がペンダントを失くしたせいで行けなかったなんてゆいちゃんが可哀想で、私はとても嫌だった。


 なんとか、ゆいちゃんが用事を優先させてくれたので、私は少し安心した。だからと言って、ペンダントは見つかったわけではない。

 私は一人、途方に暮れていた。

 何で、あの時ペンダントを着けていこうって思ったのか。

 そればかり、ずっと思っていた。こんなことになるなら着けない方が良かった。そう思った。

 その時だったと思う。

「……さん、御……く……、……御崎くん‼」

 私は顔を上げる。そこには、田月くんが居た。私たちは去年の1学期に学校外で、一度だけ話したことがあった。でも、その時は少し怖そうな人だなぁ……って思ったのだ。

 少し息切れしている様子だった田月くん。何か言われるかも、と思い怖気ついてる私を他所に田月くんは突然私に何かを差し出した。

「……これ、御崎くんのでしょう? 君をショッピングモールのイートインエリアで見かけた時に、これ忘れて置いて行って……」

 彼は丁寧な言葉遣いで、私のペンダントを差し出して言った。そういえば、昼食を食べるために行ったショッピングモールのイートインスペース。あの時、ペンダント着けたままだと危なかったから、外して置いてたんだっけ。なんで、忘れてしまったのだろう。

 しかし、それを考えた後一つ疑問が浮かび上がった。

「……な、何でこれが私のだと思ったんですか?」

 それが一番の疑問だった。何で、彼がこのペンダントを私のものだと思ったのか。すると、彼から予想外の返答が来た。

「……それは、1学期に一度話した時、君が大事そうに持ってたあのペンダントとなんとなく似てると思ったからです」

 ああ、そういえば。

 1学期の時、彼にペンダントの事を言われた事があった。その時、彼は学校ではあまりペンダントを着けない方がいいと言っていたんだ。その後、私が大事そうにこのペンダントを持っていたのを見たのだろう。

 彼は忘れる様な、あの出来事を何で覚えていたの?

「それじゃあ、用事はこれだけです。では」

 そう言って、彼はどこかに消えて行った。それ以来だろう、私が彼の事を気になって気になって仕方なくなったのは。


「……どうしたの~?」

 私はゆいちゃんの声で、回想の中から引き戻される。私はなんでもないという様に首を振った。

「……そっか、んじゃ帰ろ‼」

「そ、そうですね」

 だから、私は彼ともっと話がしたい。

 あの時、手伝うって言ってくれた神子ちゃんが頑張ろうとしているから。


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