「……ん~、どうしたらうまく出来る?」
阪南は頭を悩ませながら、御崎さんに問いかけている。
「わかんないです。……でも、ハードルは低い方が助かるんですが……」
「夢ちゃんがハードル低いって思うの何だろうね~……?」
御崎さんの問いに、2人は更に悩まされる様子で居た。ちなみに、俺にはノータッチだ。何でも、『女子の気持ちは、女子にしかわからないんですー‼』……らしい。
それで、3人がアレコレ策を粘って約20分程だろう。阿須和さんが、どれも厳しそうと答えてしまい、3人のアイディアはほとんど尽きてしまった様だ。
「う~ん、どうしたらいいんだろう……」
……俺は、ずっと一人で女子の会議を見ていなければいけないのだろうか。
そんな心配がよぎった時、阪南はある事を口にした。
「そういえばさ、」
阪南が切り出す。
「夢ちゃんってどうして田月くんの事、好きになったの?」
俺はすぐに「何聞いてるんだよ……」と突っ込んだ。すると、他の3人が驚いた表情でこちらを見てくる。これは、どう考えても俺の存在忘れている。ため息が出てきた。
「……ま、まあそんな事より、夢ちゃんが田月くんの事好きになったきっかけはちょっと気になるよね~……」
「ちょ、ちょっと……ゆいちゃんまで何言ってるの?」
御崎さんは少し困惑している様子だった。そりゃあ、そんな反応になるよなと傍らから見て思う。内心、何故御崎さんが田月の事を好きになったのかは気になってはいるのだが……。
「ん~……でも、そのきっかけの事話す時に、相手も覚えてくれてたら結構良いんじゃないかな?」
多分、それを言ったら失敗しかしない気がする。阪南の一言で余計に御崎さんが困った顔をする。これは、止めた方が良いと思った。
「そうしたら~……どしたの?」
俺はこれ以上何も言うなと伝えたい……が、どうしても口に出す事ができない。阪南の顔には、わけがわらない。そう言いたげな顔だった。
「……ま、まあそれは今度にしとかない? 夢ちゃん困ってるし……さっさとどうやって接触するか決めちゃおっ」
そこに阿須和さんが話を終わらせる様に言う。どうやら、俺の言いたい事をなんとなく察したようだった。
「ご、……ごめんね、ゆいちゃん」
「いいのいいの!」
阪南は納得いっていない様子ではあったが、この話を一旦終わらせる事は出来た。しかし、肝心の田月に御崎さんが接触する方法は未だに出ていない。
阿須和さんによると、田月に昼食を一緒に食べる時は他人を呼ばないで欲しいと言われているために、昼食で会わせる事は難しいという事。そして、何よりも田月は自分以外にあまり寄りたがらないという事だった。
「……何がいいと思う?」
「う~ん……きっかけ?」
それだけでは解決にならないだろう。そもそもきっかけってどんなきっかけを求めているのかが良く分からない。
「計画練るのって想像以上に難しい」
阪南がぽつりと呟く。もうどうしようかわからない、どうしたらいいのだろうという。遠まわしにそう言っているような気もした。
その後、阿須和さんがまた今度どうするか話し合おうという事で、喫茶店での会議は終了する事になった。
4人で頼んだメニューの支払いは全員での割り勘という事になった。そして、俺が払ってくるよう、阪南が促したのだ。
彼女は、『昌弘くん、何も言わなかったからこれぐらいはしてくれないと』と理由を述べる。お前が俺に介入するな、という趣旨の発言をした事をとっくに忘れて……。
阿須和さんも『そうだそうだー!』と阪南を支持する。御崎さんの方はというと、少し困惑気味であった。阿須和さんの方は多分、わかっていて阪南に乗ったのだと思う。
ここまで言われたら仕方がないので、俺が代表で払う事にした。ほかの3人はお店の外に出て行った。その際にお店の人が、
「……君、あの子に振り回されちゃってるね」
突然のそう指摘してきたので、少しビクッとなる。すると、お店の人は少し笑った顔になり、
「ごめんね、突然。でもあの様子だと、あの子結構君と一緒に居たいんだろうね」
そう言って指を指す。俺はお店の人が指を指した方を見ると、そこには阪南が居た。俺が顔を戻すと、お店の人はまた少し笑った顔になって、
「何かあったら、いつでもこのお店に来てね。相談には乗れると思うよ」
そして、「相談事なら、ちょっとサービスするわね」と言って合計額を言う。俺は、4人で出したお金で払う。
そして、お店の人は「ありがとうございましたー」と笑顔で俺を送る。
「昌弘く~ん、ちょっと遅いよ~」
お店から出た途端に、阪南がそう言う。俺はそこまで遅くねえよと突っ込んだが。
「じゃ、また今度ね」
阿須和さんがそういう。御崎さんもその流れで礼をして、そのままその場を去っていく。俺達は二人の後ろ姿を見送る。
「それじゃ、私も帰っちゃうね~」
俺は首を縦に振る。阪南は笑顔で「またね~」と言って駆け出して行った。
……さて、結局は決まる事は無かったがまた次があったらいいなと思いつつ、その日はまっすぐ家に帰った。