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「……というわけで、よろしくお願いします」

そこで、先生の挨拶は終わる。今年の先生は去年と同じ先生だった。

 先生が部屋から一旦出ると、何人かのクラスメイトから「江口くん、よろしく」「ヒロ~大変だろうけどよろしくな!」と声を掛けられる。

 なぜか、俺に話しかけてくる同級生は結構居て、みなよく何かを話してくれる。自分では何故そんなに声を掛けてくるのかがわからない。

俺は無口な性分で、自分から話しかけられるようなタイプとは思えないのだ。

しかし、今年は挨拶に何か一つ余計なものが入っているのだ。「大変だろうけど」という一言だ。それは、間違いなく隣にいる彼女のことなのだろう。

「……あなたって結構友達いるんだね~」

 阪南神子。俺に敬いの声が掛けられる原因である少女が隣同士なのだから。

「ねえ、あなたってどんな性格なの」

 いきなり、質問をされる。すると阪南は

「……ダメ? なら、これはどう?」

 そう言って次の質問を出してくる。質問攻めはその後も続いていき、なかなか終わらない。数分ぐらい経って

「……あぁ! 何も答えてくれない! どれだけ口硬いの!!」

 正直、質問の内容はどれもこれも困る内容のものしか無かったが、そもそも正直言って普通の質問を何故か一つも出さず、答える間も無く次の質問に移るため、一つも答えられなかったのだ。

「にしても、あなたって無口なんだ。 名前は?」

「……江口、昌弘」

 正直、口を聞く事は嫌だったから余程の事ではないと聞こえないぐらいの小声だった。しかし、阪南は口の動きで気づいたのか。

「……江口昌弘って言うんだ。 よろしくね!」

 俺の名前を正確に言い、明るい口調で話しかけたのだ。呆気に取られる間もなく、すぐに

「じゃあ、さっそく話をするね!」
 と言って、すぐに話を始める。明るい口調で今日のあの出来事を語りかけてきたのだ。結局、相手には逃げられたそうだ。

 その話をされなくてもオチは見えていたのだが、まあ逃げられるよな……と思った。あそこまでしつこく詰め寄られたら俺も逃げると想定する。

 正直、そこまでは問題にはならなかった。しかし、その話が終わってからの事が問題だった。

「……昌弘君って以外と話聞いてくれてるかも」

……いきなり馴れ馴れしく昌弘君と話しかけてくるがそれは置いといておこう。とにかく、内容は突然こちらを褒めている。そして、次に、

「私の話、誰も聞いてくれないし、無理やり聞かせても寝てしまったり、途中ですぐに逃げ出したりする人ばっかりだけど」

 とんでもないことを口走っているが、問題はここではなかった。その後だ。

「昌弘君はそういう事ないんだね。 ちゃんと最後まで聞いてくれてありがとう! 今日、学校終わったらあなたについてくね」

 それは、あまりにも唐突なもので、しばらく放心していたと思う。

 あまり話したことの無い相手がついてくるというとても意味不明な事をされるかもしれないのだ。正直、とても嫌だ。