『とりあえず、これは常識だからちゃんとやっとけ』

「……わかりましたわかりました、ちゃんと言うから~……」

 ちょっとおどけている様子ではあったが、阪南は教室のドアの前でちゃんと俺が行った通り、「2年2組の阪南神子です」と言った。音のトーンが少し、わざとらしかったが。

「えっ……と……阿須和ゆいさんっていますか?」

 必至に頭から捻り出し、出てきた会う人物の名前をすぐに出した。しかし、反応はない。

「どうしよっ! なんかみんな気づいてないよ~!」

 ……そういえば、阪南はみんなが避けたがっている存在だという事に気づいた。誰も反応してくれない事に納得がいく。……となると、俺が行くしかないのか?

「……あれ? 阪南さんと、江口さん?」

 そこに、誰かが声を掛けてくる。

「あれ? 夢ちゃんって神子ちゃんと昌弘くんと知り合いかなにか?」

 聞き慣れない声だが、妙に馴れ馴れしい。というより今、夢と聞こえてきた。まさかと思い、振り向くと。

 そこには、御崎さんと……もう一人、名前の知らない女子が居た。

「あ、夢ちゃん! ここのクラスの阿須和ゆいっていう人がいないか聞いたんだけど、誰も気づいてないの~!」

「ん? 私の事探してたの?」

「……は?」

 さりげなく、女子が発した事に驚く。そこに、御崎さんが説明をする。

「……あっ、この子が阿須和ゆいなんです。あの、私たち同じクラスで……その、仲がいいんです」

 ……なっ⁉

「……えええっっっ⁉」


 話を聞くと、御崎さんと阿須和さんはたまに話し合う仲だった。阿須和さんは御崎さんに好きな人がいる事を知っていたらしいが、それが田月だとは知らなかったらしい。

「も~、教えてくれたら協力してたのに~」

「だって、ゆいちゃん田月君と仲がいいなんて一言も言ってなかったもん……」

「ありゃ? そうだっけ」

「そうだよ~!」

 ……正直な所、これはかなりいい展開に向いている。まさか阿須和さんと御崎さんが友達同士だったとは。だが、このまま良い調子で物事が進むわけではないとは思うが、それでもいい方向に行きそうだ、とは思う。

「まあ、ここで話すのも難だし、放課後にしない? その方が、他の人に聞かれる事も無いだろうし……」

 亜須和さんは、そう提案した。まあ、そんな恋話を廊下で堂々と話していたら変な噂にんsるだろう。

「そう、ですね。でも、話せる場所ってどこがあるんでしょう……?」

 確かにどこでやればいいのかと悩む亜須和さん。まあ、そうなるとは思っていた。

「どういうとこがいいかな?」

「そうねぇ〜……カフェとかがいいんじゃない?」

「それですね! でも、学校の人でも知らない所の方がいいのかもしれないけど、どこかあるかな?」

 それを聞いて、俺は一つ思い出す。そういえば4月の最初の頃に阪南にバレない様に帰っていた時、あの商店街の隅に喫茶店があった事だ。