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「よ~、昌弘。最近どうだ?」
拓海が声をかけてくる。月曜の朝からとても元気が良いなと思う。
『どうもこうも、妙な事に巻き込まれた』
「……ほぉ?」
やけに興味津々な反応である。それを見て気が重くなる。
「何があったんだ? 答えてくれよ」
面倒だ。何があったか話す気になりにくい。
「ど・う・な・ん・だ?」
そんな俺のマイナスな感情を他所に、この男は実にノリノリである。俺が阪南とよくいるようになってから完全に興味本位で話しかける事が増えてきた。
俺と阪南の関係の進展など気にしても仕方ないのではあるのだが……。
「……お~い、江口昌弘さ~ん。聞こえてますか~?」
この反応から見るに、しばらく無反応だったようだ。俺は聞こえてたというようにジェスチャーを取る。
「おおそうか~……んで、どんな事に巻き込まれたんだ?」
……どうやら拓海の興味はどんな騒動に巻き込まれたどうか。この一点に集中しているようだった。
「ふむ……なるほど、協力か」
俺は事情をノートに全部書き込み、拓海に渡した。拓海は興味深そうにその内容を熟読しているようだった。ちなみに御崎さんの名前は出していない。
「これを見る限り、夢ちゃんの恋を応援するという感じかな?」
のだが、何故拓海は御崎さんの名前を出しているのか。それを聞いた時、顔が拓海の方に自然と向いた。
「……まあ、あいつの事が好きだって聞くの夢ちゃんぐらいだしな~」
まるでそれが常識かの様に拓海は言う。そういえば拓海の情報網の広さはかなりのものであった。
欲に言う情報通という事だ。そこで、俺は気づく。俺は、拓海に言う。
「……それ……なら一つ、……ある」
「ん?」
自分でも話し方がぎこちないと感じる。長い内容だと余計ぎこちなさが目立つ。そこから湧き出るものを無理やり抑え込み、口に出す。
「田月豊……の事……を知りたい……んだが」
たった今、天野拓海の情報網の広さが俺にとって意義のあるものになった。
情報通な拓海曰く、田月豊はすなおじゃないという評判らしい。その理由は、口や態度では嫌味な事ばかりしてくるが、実際は実直的な一面も持ち合わされており、割と信頼されているという事。
拓海から聞いたのをざっとまとめたらこんな感じではあった。他にあった事と言えば、友達はいないらしい。それは、田月が友達を作りたがらないのであるかららしい。ただ、阿須和ゆいという少女とだけはとても仲が良いらしい。
その阿須和は2―1にいるという事らしく、俺は協力してほしいという趣旨の話をするために昼休み、2―1に行くことになった。
「……んで、ゆいちゃんって子に話しかけるのね!」
無論、阪南も一緒である。俺はこくりと頷いた。
「じゃあ、さっそく2―1行こっか~!」
そう言って廊下の方へ駆け出していく。俺はそのまま阪南の後を付いていく。まあ、2―1は2―2の隣なので、あっという間ではあった。
ものの数秒で2―1の教室の前に着いた。しかし、どうやって自然に入るべきか。地味な所とはいえ、難題は難題ではあった。すると、
「……もう、何で立ち止まっちゃうの? 私、先に入っちゃうからね」
と言い、阪南が2―1の教室に入っていった。俺は慌てて追いかける。そして、ノートに殴り書きして阪南に渡す。
「んえぇ~……まずは最初に『失礼します、○○年○○組、自分の名前です』と言って、『阿須和さんいますか?』と聞け!……って?」
……いや、その前にまず入る時の挨拶も言わずに教室に入り込もうとしてる時点で少し失礼な気もする……。