俺は走りはじめて阪南に追いつこうとするが、ここは街中だ。速く走るのは危険だった。だから、走り始めたといってもジョギングの様に一定の速さで走るのが限界だった。

 すると阪南は突然人ごみの集まっている方へ突撃していく。

 阪南はここなら俺を撒けると思ったのだろう。彼女の姿はどこにも見当たらない。見事にやられたと思う。しかし、彼女はハンバーガーショップを出る時に言っていた事がある。

 恐らく、このまま行けばたどり着けるだろう。そう思ってスマートフォンを取り出し、地図のアプリを開く。

 ビンゴだった。彼女が行ったと思わしき所は間違いなくそこだった。

 俺はそのまま彼女が去っていった方へ走る。彼女があの場所に行った理由もそこでわかるのかもしれない。

 間違いない。彼女は俺に何かを隠している。

 *

「……あれ~? 何で昌弘くんがここにいるのかな~?」

 そして、その場所に行くと彼女はそこに居た。しかしそこにはもう一人いた。

「あの……どういう事ですか?」

 阪南と一緒にいた少女が口を開く。彼女はとても清楚な見た目をしていて、穏やかそうな印象を与える。

「……えっと、俺はこいつと……ちょっと街に出か……けてたんです」

 少し言葉を詰まらせるが、なんとか彼女に言いたい事は伝えられた。すると、彼女は驚いた素振りをする。

「え、神子ちゃん一人じゃなかったの?」

「え、え~と……それは……」

 俺は心底呆れる。知らない所で彼女は俺に必死に隠して色々していたことにだ。

 そこから、沈黙が少しの間始まった。気まずさが先行していて、誰も何も言えないのだと思っていたら、あの女子が口を開き始める。

「あの……私、御崎夢って言います。 あなたは……?」

 突然の自己紹介だったので戸惑った。しかし、答えないのも失礼ではあったのでノートに自分の名前を書き出して、紙を破り、彼女に手渡した。

「……あ、えっと……。 江口さん、ですね」

 彼女の顔には少し笑みが入っていた。何故だろうと疑問に思ったが、そんな事よりも重要な事があった。

 俺は、阪南の方を睨み付けるように視線を動かす。

「……あ、その……えっとねこれはちょっとこの間ねちょっと何してるのかな~とか思って」

 話している内容は支離滅裂そのものだった。俺は阪南の肩に手を置く。

 阪南は俺の意図に気づいたようで、ゆっくりと呼吸をして、そして息を吐く。

「……先週、夢ちゃんが2―2の教室をこっそり見てて、何してるのかな~って思って話しかけたら、とても驚いてね。 それで何してたのって言ったんだけど、内緒と誤魔化されたの。 それでそのまま教室に入ろうとしたら、突然手伝ってと言われて……今こうなってるの」

 それは説明になっているのだろうか。俺は説明になっていないと思っていた。しかも最後の方は明らかに端折られだ。