なぜなら、
「見て! この服とてもオシャレじゃない?!」
という感じで喜んで服を見ている阪南にそれを言ってしまったら確実に空気が悪くなるからだ。
俺は阪南が服を選んでいる所を遠目から見ていた。彼女のテンションは相当高く、お気に入りのファッションや服を見つけると、すぐに近づいて行ったからだ。
まあ、その度に値札を見てガッカリして戻っていくのだが。どうやら彼女はなるべく安いものが欲しい様子であったと感じる。
彼女はどのくらいに収めて買うかとかはまったく言っていなかったのだが、彼女が真っ先に確認していったのは間違いなく値札だった様に見えた。そして、こちらに戻ってくると必ずと言っていいくらい、「○○円だったよ……残念」という様に語り掛けるのだ。
こちらに言われても困る事ではあるが、彼女がやめる気配は一つも無かった。気にする事もなかった。もしかしたら、阪南は一種の天才なのかもしれない。
「あ、そうだ」
阪南が突然こちらに向けて話しかけてくる。
「本屋、行ったら? このままだと時間無くなっちゃうかもしれないし」
彼女は俺が本屋に行くのを推奨させた。つづけさまに、
「私の見ててもつまらないと思うから行った方が良いよ」
と言う。もはや、この流れは否応なしに行く流れであったのは明白だった。
結局の所、俺は一人で本屋まで行く事になった。ファッション系の店舗からはやや遠い所にあったために少し歩く事になってしまった。
まあ、自分で選んだ事なので仕方は無かった。俺はそのまま徒歩で本屋の位置まで歩いていく。
街は俺よりも少し年上の人が一番多い。この繁華街は若者に人気がある街として、テレビで特集されているような場所なのだ。それも当然なのだろう。
俺は人ごみを分けていくような通り抜けていった。ここにはあまり長居したくは無かったからだった。俺は、真っすぐ本屋の方向に目がけて歩いていく。
実は、ここの本屋は何度も行っていた。ここの本屋は外の街並みと違ってとても静かで、温かみがある場所だった。俺はそんな空間に惹かれてよく足を運んでいたのだ。