しかし、そこから話が膨らみはじめ、いつもの彼女と同じ様に話が延々と続いていった。どこからそんな話題を作る事ができるのか……彼女はある意味すごい才能を持っている。もはやバラエティ番組やラジオ番組の司会でもやっておけばいいのではないか?そんなレベルであった。

 そこに電車が着くというアナウンスが流れてきた。アナウンスから少しも経たずに電車がホームに現れた。

 俺達は電車に乗り込んだ。ここで、阪南が話さないように一指し指を口に当てる。阪南はわかってると言わんばかりに首を大きく縦に振った。それを確認して改めてホッとする。

 阪南はお出かけでしたい事として、服を見たりとかしたいと話していた。別に一人でいいのではないかという話にもなるがそこに突っ込んだら永遠にその議論が続くのでそこはなしとする。

 とりあえず、彼女はファッションが気になるので、服を見ていきたいという事なのだ。そこでお出かけの話を終わると思ったのだが、「あれ? 昌弘くんは行きたい所ないの?」と阪南が聞いてきて、次に俺の行きたい所の話になった。

 別に見るものが無かったので行きたい場所を上げなかっただが、彼女が「折角だから自分の行く場所は決めておいた方がいいよ!」と迫ってきた。俺はそこまで言うならと思い、適当な場所を選んだ。

 そこは、

「……ねえ、昌弘くん?」

 俺はハッと気づく。阪南が話しかけてきたのだ。彼女の顔を見ると、少し不安そうな表情をしてこっちを見ていた。

 俺はこの間の事を思い返していて、阪南の問いかけに気づいていなかったらしい。俺はごめんとポーズで表す。

「何か考え事してたの? ……まあそれはいいとして、本当に本屋でよかったの?」

 その適当な場所は、本屋なのだ。特に見たいものがあるというわけではない。ただ、なんとなく選んだだけだった。

 俺はそこで大丈夫だと言うようにうなずいた。阪南は本当かどうか疑わしそうな顔をしていたのだが、すぐに顔を戻す。

「それなら、いいんだけど」

 この言葉だけは、それまでと違い少し重みがある様に感じた。

「まあ、折角のお出かけだしここでしか見つからないものもあるかもしれないからじっくりと見てみるのもいいかもね! それなら本屋を選んだのも納得がいくかもね!」

 そこまで大声では無かったのが幸いだが、彼女のおしゃべりはまた始まった。さっきのあれは何だったのかというくらい明るい口調だった。

 それまでの流れからして不自然だった。俺はノートに書いてその事を伝えようとする。

「……あ、もうすぐ着くよ!」

 そう言った彼女に誘導される形で扉の前に立つ。そして、電車のスピードを落とし始め、ホームに着く。

 完全に止まった後、電車の扉が開くと彼女は俺の腕を引っ張って早歩きで歩いた。

 こうして、良いタイミングを逃してしまった。買い物中にそんな事を言えるわけがなかった。もし、そんなことをしたら良くなった雰囲気を壊してしまうためだった。