「戦争の終わったのちの世にも残したかったんでしょうね。

 でも、私の持っている楽譜にはちゃんと終わりまで書いてありますけど。

 ただ……」

 真生はそこで言葉を止めた。

 高坂の叔父はレコードには途中までしか残さなかった。

 それは恐らく――。

「高坂さんの叔父さんは最後まで曲を作っていたけど、納得がいかなかった。

 だから、のちの世にまで残るようにと作ったレコードには途中までしか曲を入れず、楽譜にだけ、先を書き残した」

「じゃあ、結局、未完のままなんだな」

 叔父が納得できていなかったのなら、と高坂は言う。

「いえ……そうではないと思います」

 真生がそこで高坂に視線を向けると、彼は目をそらし、
「じゃあ、俺も風呂に入ってくる」
と言って出て行った。

 真っ黒なレコードのジャケットを見つめ、真生は思わず口ずさむ。

 南方に戦争に行っていたという曾祖父が自分を膝に乗せ、口ずさんでいた、あの曲を。