ふいに外が明るくなったと思ったら、車のヘッドライトのようだった。

 まだあまり車が走っていないので、闇夜を照らすその明かりが目についた。

 窓の外を見ると、病院の玄関前にクラシカルな黒い車が着くのが見えた。

 いや、この時代にしてみれば最先端の車なのだろうが。

 若い男が慌てて降りて、白衣を羽織りながら病院に入っていく。

 急患で人手が足りなかったのか、呼び出しをくらったようだった。

 高坂もチラとそちらを見ていたので訊いてみた。

「あの、高坂さんは、何故、お医者さまにならずに、海軍に入ったんですか?」

 実は単に船が好きだったとか?

 軍人にさんに憧れてだとか? と思ったのだが、高坂は、病院から目をそらし、ぼそりと呟いた。

「……俺は医者にはなれないんだよ」

 そう言ったきり、何故、なれないのか、に関しては、なにも語らなかった。