高坂が古い鍵を取り出し、廃病院の玄関を開ける。
完全に焼け落ちている廊下の端を見ながら、
いやー、鍵、意味ないと思いますけどねー、と真生は思う。
最初は異様だと思ったあの赤い扉も、なんだか見慣れてきて、見ると、ほっとした。
帰ってきた、という感じがするからだ。
まあ、人の家だが……。
「美味しかったです。
ご馳走さまでした」
と木製のポールハンガーにハットと外套をかけている高坂に言うと、
「そうか、それはよかった」
と言ったあとで、高坂は、
「まあ、八咫も居ると話に花が咲いてよかっただろうがな」
と言ってきた。
「へえー、八咫さんって、意外に饒舌なんですか?」
と訊くと、
「ある種類の話になるとな。
肉を食いながら聞くと、血も凍っていいぞ」
と笑う。
……それはぜひ、同席したくない相手だな、と真生は思った。